北海道農業の司令塔である北農4団体の会長、副会長などが今年6月に改選期を迎える。改選は3年に一度行われるものだが、今年は菅首相が尊農開国と位置づけるTPP(環太平洋経済連携協定)の参加・不参加を決める時期と一致する。日本農業の趨勢が決まる重要課題とぶつかるため、役員改選は波風を立たせない配慮が働くものと見られる。
(写真は、北農中央会の飛田稔章会長)
3年前の改選では、北農4団体(北農中央会、北信連、ホクレン、北海道厚生連)の会長が全て交代するなど、北海道農業が新体制で牽引されることを内外に印象づけた。
道内の農協組合長の中から選出される4団体の会長、副会長など常勤役員は、1期3年が任期で、“憲法”と呼ばれる内規では5期15年を超えないこと、改選時に70歳を超えないこと――の2点が遵守されている。
前回は、いずれの会長のこの内規に抵触したため4人が揃って勇退するという珍しい役員改選になった。
現在の会長は北農中央会が飛田稔章氏(JA幕別会長)、北信連が菅原輝一氏(JAピンネ会長)、ホクレンが佐藤俊彰氏(JAオホーツク網走会長)、道厚生連が奥野岩雄氏(JA富良野会長)。
北農4団体のトップは、道内各地域のバランスをとるように選出される。有力4地域である上川、十勝、空知、オホーツク網走を中核にしながら石狩や後志、日胆、渡島・檜山などが衛星的に組み込まれる。パワーバランスを石垣状に組み合わせることから権力構造の芸術という、農業団体ならではの人事術のようなものが伝統的に培われている。
さて、今回の役員改選では、いずれの会長も“憲法”には抵触しないうえ、1期目でそれぞれの会長カラーがようやく各団体に見え始めた時期。しかも、これといった失点もないために続投が確実な情勢だ。
“憲法”によって勇退するのは、ホクレン副会長の枳穀勝久氏(JA道東あさひ会長)と同じくホクレン代表監事の遠藤秀孝氏(JAびえい会長)の2人。
枳穀副会長は、酪農を担当しており、後任は酪農地帯である「根釧」から選出されるのが順当。順番から行けば、今回は「根釧」の「釧」になり、JA釧路太田の河村信幸組合長が有力。周囲の眼も河村氏有力だが、「根」が続く可能性もある。
そうなると、JA道東あさひの原井松純組合長とJA中標津高橋勝義組合長の戦いになる。ただ、道東あさひは2年前に別海町3農協と根室農協が合併したばかりで内部体制をコンクリートする時期に当たるため、合併の立役者である原井氏が地元を離れて札幌に常駐することができるのかどうかという問題がある。
また、高橋氏は健康が回復したとは言え、激務をこなせるかどうか不安が残る。高橋氏は論客で酪農に対する見識と洞察には定評があり、農業界には高橋氏を待望する声もある。
一方、遠藤代表監事は上川から選出されている常勤役員3人のうちの1人。上川は常勤役員3人を維持すると見られ、後任にはJA道北なよろ、JA北ひびきの各組合長の名前も取り沙汰される。
北農4団体の役員改選に向けて2月末には、役員選考委員会が設置される。この委員会の会長には前回と同様に有塚利宣JA帯広かわにし組合長が就くことになる。
3年前の役員改選は大幅入れ替えの人事だったが、今回はTPP問題などが山積しており、波風を立てない小幅人事で北海道農業界の一枚岩を維持強化する方向だ。