低額運賃で札幌交通圏(札幌市、江別市、北広島市、石狩市)に新規参入した札幌エムケイの事業許可と運賃認可を巡り、札幌ハイヤー協会と協会加盟4社が道運輸局を相手取り許可と認可の取り消しを求めた行政訴訟の判決が9日、札幌地裁であった。長谷川恭弘裁判長は協会には原告適格がないとして棄却、4社については運賃認可の原告適格はあるが、適法に行われたとして訴えを退けた。協会会長で事業者の1社、昭和交通社長の加藤欣也氏(60)は、「判決は運転手の労働条件改善や運賃適正化に触れていない。控訴するかどうかは理事会で決めたい」と語った。(写真は、判決を受けてインタビューに応じた加藤欣也氏=2013年5月9日午後、札幌ハイヤー協会で)
札幌ハイヤー協会と昭和交通、明星自動車、葵交通、東邦交通の4社が道運輸局に対して札幌エムケイの事業許可と運賃認可の差し止めの訴訟を提起したのは、平成21年2月。その後、同年3月に道運輸局が事業許可と運賃認可をしたため、原告らは許可と認可の取り消し訴訟に変更。
当時、札幌交通圏では規制緩和によるタクシー事業参入が相次ぎ、供給過剰に近い状態だった。協会側は、札幌エムケイの初乗り運賃550円という下限割れ運賃は値下げ競争を助長し運転手の労働条件悪化を招くとして提起したものだ。
口頭弁論は4年間で23回行われ、途中から札幌エムケイも当事者ではないものの訴訟に参加した。当初の裁判長は、関西地方でMKグループ訴訟に携わった経験があったが、その後異動、裁判長が代わり判決日も4月18日の予定が変更になった経緯がある。
9日の判決ではハイヤー協会と4社の全面敗訴となった。長谷川裁判長は、道路運送法が協会の利益を保護するものではないとして原告適格に欠くと判断、許可と認可の両方を却下。一方、4社による事業許可の取り消しについても、平成21年3月時点でタクシーの新規参入などを規制する「緊急調整区域」に指定されておらず既存タクシー業者を保護する地域になっていないとして原告適格はないと判断した。
また、4社による運賃認可取り消し請求については、途中で4社は道運輸局が昨年6月に札幌エムケイに再認可した運賃認可の取り消しに変更、この時期は既にタクシー特措法が施行されており既存事業者の利益は守られるとして長谷川裁判長は原告の適格を認めたものの、「道運輸局による認可は適正に行われた」として訴えを退けた。
判決を受けて札幌ハイヤー協会会長を務める昭和交通社長の加藤氏は、「23回も口頭弁論を行った結果が原告適格なしという判決は承服しがたい。また、裁判所はタクシー運転手の労働条件改善や運賃の適正化について触れていないし、我々が求めた監査強化についても答えていない。17日に緊急理事会を行い、控訴するかどうかを決める」と答えた。
この裁判は、タクシー事業者団体や事業者が許可と認可を巡って行政官庁を訴えた全国初のケース。その後、この提訴によって社会的関心が高まり自民・民主・公明の3党合意で規制強化のタクシー新法の立案へとつながって行った。タクシー新法は、これまで自主的だった減車を強制的に行えるようになり、下限割れ運賃についても行政官庁が指導を強化するもので参議院選挙後にも議員立法で国会提出され可決される見通し。
平成14年の道路運送法の規制緩和によって自由化されたタクシー業界は、増えすぎた車両で実車率の低下や運転手の賃金悪化を招いた。この裁判は協会や事業者の敗訴になったものの行き過ぎた規制緩和に歯止めをかける一石を投じたことは間違いない。