――現下では余資運用の環境も厳しいものがあります。
齋藤 人員的にも制約があって証券投資でリスクを取れる体制を地域金融機関は取りにくいですから、どうしても債券運用が中心になってきます。債券もどんどん利回りが下がっていて、持ちきりでの長期運用は難しい。決算では余資運用で数字を作っていかなければならないですから、今持っている債券の中で含みがあるものを売却して益出しをします。益出しをして買戻しを掛けても簿価が高くなって益出しはしばらくできなくなってしまい、運用環境は良くない状況です。
――マイナス金利でも貸出先が増えず、余資運用の環境も悪化するのでは、地域金融機関は三重苦に陥っているイメージです。
齋藤 環境的にはそうです。それを克服するだけのウルトラC的なものがあるのかと問われると『ノー』です。銀行や信金などの金融機関のビジネスモデルは変革のしようがないですが、変革をするとすれば、プロセスとプロダクトをどうするかです。既往のビジネスモデルの枠を見据えながら、そのモデルを構築しているパーツ、パーツであるプロセスとプロダクト、つまり金融商品と営業過程、管理過程などにどう変革を仕掛けていくかがポイントになってきます。
――成長戦略もなかなか描きにくいですね。
齋藤 安定的に継続することが重要課題になってくると思います。自分たちの取り得るリスクの範囲はどこまでかを明確に意識しながら、貸出しを中心とした運用政策を進めていく必要があるでしょう。今までのように、極言をすればノーリスクを目指していくようなお金の貸し方ではなく、どこまでのリスクだったら許容できるのかを明確に意識した運用政策に切り替えていく必要があります。それは、『リスクアペタイト』という概念です。アペタイトというのは専門用語で『選好』という意味ですが、どういうリスクを自分たちが好み選んでいくか、そこを明確に意識した運用をやっていく必要があります。
—―その中で合併は成長戦略のひとつではないでしょうか。
齋藤 今の行われている合併には、防御的な意味合いが強いと感じます。先ほどお話ししたように、プロセスの部分でローコストオペレーションを目指していくという上で、規模を追求することはひとつの変革です。ただそれがコストの縮減であるという意味では、非常に防御的。縮減したコストによって競争力を付け、攻勢に出るという意味では攻めの側面ももちろんありますが……。
金融機関という組織が生き残るためには、いつも合併が手段になってきました。金融機関が誕生して以降200年来の伝統戦略のようなものです。しかし、それによって大きな弊害が出てくるのが、地域金融機関の信金ではないでしょうか。それは、信金の根幹である地域性を薄めてしまうことに繋がりかねないからです。合併によって営業エリアが広くなると、目配りしなければならない地域が多くなります。
当然、エリア内で地域ごとに差を付けることはできません。例えば3信金の合併なら3つの営業エリアが統合されるわけですから、3つのエリアに共通する要素を抽出して、それを新しい信金の行動指針、つまり芯に据えることになります。そうすると、どうしてもそれぞれの信金が持っていた特色は薄まります。合併によって強固な存続基盤を築けますが、一方では地域性を薄めてしまうことによって、むしろ銀行に近づいてしまう。
銀行に近づくことによって、同質的な競争が激しさを増していく可能性が高くなってしまいます。信金にとって両刃の剣のような面があるのも確かではないでしょうか。(続く)