「釧路製作所」橋梁、鋼製タンクの蓄積技術で宇宙ビジネスに挑戦

経済総合

 同社は、宇宙関連産業のみならず、GX(グリーントランスフォーメーション)にも大きな関心を寄せている。「日本海側に洋上風力発電の基地港湾を整備する動きがあります。この事業では、風力発電装置のブレード(羽根)、シャフト、駆動部分のナセル(発電機や増速機で構成された部分)などを置く架台が必要になってきます。そうしたニーズに対して、我々のような鋼構造物メーカーや鉄骨事業者、港湾荷役会社、造船会社など、釧路地域の事業者たちが、まとまって参入を目指していくことも必要だと思います」
 自社単独ではなく、地域全体で新規事業に挑むことが大切だと羽刕社長は、強調する。そのことによって、“持続可能な地域”に繋がっていくからだ。

「基幹産業の衰退が著しい釧路では、それらを支えてきた中小企業がまとまって頑張っていかなければ、地域の経済力が保てなくなります。当社は、時代の変化に合わせて、さまざまな新しいことに挑戦していかなければならないと思っていますが、それで得た技術やノウハウを地域に還元し、地元の中小企業が連合体となって、持続可能な取り組みを進めていきたいと思っています」

 冒頭に触れた展示車両のSL8722号。雄別炭礦鉄道から創業した歴史を、今に伝える同社の象徴だが、1980年、現在の社屋完成と共にモニュメントとして展示され、今日に至っている。このSLは、昭和期にイギリスのノースブリティッシュ社の車両を模倣して日本でつくられた希少価値の高い車両で、全国の鉄道ファンなど、訪れる人は絶えない。『鬼滅の刃 無限列車編』に登場するSLは、86形をモデルとしていると言われており、この87形によく似ていることも、人気の理由になっている。

(写真は、2024年に催されたイルミネーション点灯式の様子)

 2015年からは、冬期間にSLを美しく彩るイルミネーションも始めた。毎回の点灯式では、地元小学校・金管バンド同好会の演奏が行われたり、FMくしろで中継されたりするなど、恒例のイベントになっている。今季の点灯式にも、約130人が訪れた。点灯式を開始した2015年からは、演奏を披露した金管バンド同好会に、楽器を一つ寄贈する活動も続けている。

 工場見学の実施も、鋼製構造物メーカーとしては珍しい取り組みで、2016年から積極的な受け入れを始めた。小中学校の社会科見学や、シニアの団体もよく訪れている。「工場見学を通じて、小中学生には、“ものづくり”の面白さや雰囲気を知ってもらい、“ものづくり”に携わる地元の若者が出てくれればうれしい。また、自分の住んでいる地域に、地域を盛り上げようと頑張っている企業があるということを知っていただき、誇りに思ってもらえれば、といった思いもあります」

 羽刕社長自ら地域の小中学校の校長会を訪ね、社会学習の一環として、工場見学を勧めるプレゼンを行なったこともある。見学者がいることで、従業員の身なりが整い、工場内の整理整頓などに繋がる効果もあるという。VR(バーチャルリアリティ)を活用した溶接体験も行なっている。これは、文字通りVR=仮想現実空間で、やけどなどの心が配無く、溶接技術を体験できるもの。若手技術者のトレーニングを目的に導入したが、持ち運びできる便利さから、学校に出向いて「出張溶接技能体験」も行なうようになった。 
 地域で生まれ、地域と共に発展してきた同社は、地域貢献を社業の一環として捉えている。社会的存在として、企業のあるべき姿を追い求める姿勢は、炭鉱をルーツに持つDNAかもしれない。

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