2018年、転機が訪れる。「この年に、北海道経済連合会が、大樹町(十勝管内)の民間ロケット会社・インターステラテクノロジズ(以後、インターステラ社と表記)を創設した堀江貴文さんの講演会を開催しました。それを当社の若手社員が聞きに行ったのですが、会場には、当時の酒森正人大樹町長(前町長)もおられた。社員が酒森町長に、『インターステラ社にお話しをうかがいたいのですが』と相談したところ、『では会社に電話されてみたらどうですか』と。早速、電話をしたところ、インターステラ社側も『どうぞいらして下さい』ということになりました」
その頃、インターステラ社は、出資企業を求めており、釧路製作所は、社内での検討を経て、2000万円の出資を決めた。それ以後、同社の要望に応える技術的な協力も次々と実施していく。ロケットの燃焼噴射試験の際に出る、大きな音を遮る防音壁や、ロケットを縦型にして、宇宙圏到達に必要な2分間の燃焼噴射を試験する縦吹燃焼試験架台などを製作した。
「縦吹燃焼試験架台とは、燃焼試験の際にロケットが飛ばないよう、機体をしっかり掴んで固定する装置。これをインターステラ社に納品し、2分間の燃焼噴射が確認できたMOMO3号機が2019年、宇宙圏に到達しました。民間商用ロケットとしては、初めての快挙です。そのお手伝いができたことは、とても感慨深かった」
その後、経済産業省の事業再構築補助金を活用して、精密機械加工機のマシニングセンタを導入する。同補助金は、成長分野に向けた大胆な事業再構築に取り組む事業者や、国内市場の縮小などの産業構造の変化により、事業再構築が強く求められる業種・業態の事業者を支援する目的で設けられたもの。同社は、ロケットや人工衛星といった、宇宙産業用の部品を供給する事業を目指して補助金制度を活用することにした。
(写真は、宇宙関連産業への幅広い貢献を目指し導入したマシニングセンタ)
「2021年、大樹町に北海道スペースポート(※略称HOSPO=ホスポ)が誕生しました。同施設は、インターステラ社だけでなく、世界中の民間企業や研究機関が自由に使える、民間に開かれた商業宇宙港。北海道、スペースポートでは今後、多くのロケットが打ち上げられるでしょう。そうした事業に寄与できるよう、マシニングセンタを活用していきたい」
最近では、人工衛星推進剤の燃料を開発、研究している北大スタートアップのLetara社とも、人工衛星パーツの製造依頼が来て縁ができ、2024年11月には、同社へ約2000万円を出資した。この他、宇宙関連の事業では、酒販業などを営む100年企業の五明や家具・インテリアのBASE9(ベースナイン)、木製家具・建具製造の得地ファニチャ工業など、複数の地元企業も参画して、インターステラ社の宇宙ロケット開発廃材を活用するアップサイクルプロジェクト「&SPACE PROJECT」にも協力している。
このプロジェクトで、同社は、得地ファニチャ工業と共同で、ロケットの金属廃材と木材を活用した「宇宙タンクベンチ」を製作したが、この取り組みを通じて羽刕社長は、新たな“ものづくり”の可能性が見えたという。「今回、木材を扱う得地ファニチャ工業と一緒に“ものづくり”をしましたが、金属と木材の組み合わせに面白さを感じました。鉄は、再利用でき、木材は、北海道に豊富にあります。今後、木材を使った紙づくりが進歩し、もしかしたらロケットなどにも使われるような強固で軽い素材が、誕生する可能性があり得ます。再利用した鉄と強固な紙の素材を融合させた建築物も、一般的になるかもしれません」