「一度は東京に本社を移したが、メリットはなかった。北海道に本社を置くメリットはこれから十分に出てくると考えている。東京は情報の洪水で、発想を醸成してサービスにする“発酵”ができない。北海道は時間がゆったり流れており、発想をサービスに“発酵”させる土壌がある。振り返ってみると、私どもが手掛けてきた事業の多くは、北海道に本社を置いていた頃に発酵させたアイデアだった」と振り返るのは、東京証券取引所プライム市場に上場しているウェルネット(札幌本社・札幌市中央区、東京本社・東京都港区)の宮澤一洋社長(62)。同社は9月3日、札幌証券取引所から本則市場への上場承認を受け、同月14日に重複上場することになった。(写真は、札証本則市場への上場について会見するウェルネットの宮澤一洋社長=左と五十嵐達哉執行役員管理部長)

 ウェルネットが札証に重複上場することになったきっかけは、2021年7月に東京と札幌の二本社制を採用、札幌市内に新社屋を竣工させて札幌本社を設置したこと。同年12月には登記上の本店も札幌に移し、宮沢社長も同年11月には札幌に住民票を移した。同社は、1983年4月、札幌に本社を置くLPガス販売の一高たかはしの電算業務受託を目的に、西北石油ガスという商号で設立された。1996年7月に、事業内容を代金決済や代金決済周辺事業に集中させ、商号もウェルネットに変更した。同社は、EC(電子商取引)でコンビニ決済を普及させたコンビニ決済のパイオニアとして知られる。2000年から航空会社3社などとマルチメディア端末に番号を入力するだけで紙を使わないリアルタイム現金決済システムを提供するなど、代金決済、電子請求、電子決済、携帯認証ソリューション開発、提供を主な事業にしている。2022年6月期の売上高は89億5000万円、経常利益は7億5400万円、純利益は5億3200万円。

 2009年6月には東京に一旦は本社を移したが、12年ぶりにサケの遡上よろしく回帰。社員数123人のうち札幌には101人、東京には22人で文字通り札幌にUターンしたことになる。札証本則市場への上場は、ウェルネットを広く認知してもらうことと道内個人株主の発掘が狙い。元々、札幌発祥ということで北海道の株主数は多く、道内株主が所有する株式数は全体の14%と関東の47%に次ぐ2番目の地域。宮澤社長は、「IRを通じて北海道の個人株主を増やしていきたい」と話す。

 宮澤社長はこう続ける。「北海道は農業を含めて可能性がたくさんあるが、チャレンジしないと駄目。トライ&エラーを繰り返していくことと、失敗を叩かないことが大切。失敗を叩かれると経営者も社員も萎縮してしまう。私は失敗からしか学べないと思っている。ウェルネットで特別損失1億5000万円を3回も出して一番失敗したのは、この私です。そういうことをネタにできるのはウェルネット。そうした社風を少しでも北海道に持ち込んで、新しい風を吹かせたい」と強調した。

 その上で、「札幌市役所や道庁の上層部の人たちはクリエティブで革新的な考えを持っている人が多い。どこの組織でも中間管理職が抵抗勢力なので、トップがリスクを負ってスピード感を持って決断していくことが大事だと思う。それをやれば部下は付いてくる。時代の変わり目はボトムアップではなく、リスクを負ってリーダーが決めていく経営スタイルが良いのではないか」と話した。



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