キャリアバンク佐藤良雄社長が反日デモの渦中に12日間の中国入り、「今だからこそ中国リスクを恐れずビジネスを進める」

経済総合

 日本の尖閣諸島国有化に端を発した日中関係の悪化は、政治、経済に深い影を投げかけている。北海道では、東日本大震災で落ち込んだ中国人観光客が戻りかけていた矢先の出来事で低迷する道内経済に追い打ちをかける事態になっている。そんな中、中国で反日デモが相次いだ時期を挟み、頻繁に北京や上海を訪れたのがキャリアバンク社長とSATO社会保険労務士法人代表を兼務する佐藤良雄氏。険悪化する日中関係の中でも敢えてビジネスを推し進めようとする佐藤氏に真意を聞いた。(写真は、青島の街並みとトヨタ車に貼られた『釣魚島は中国のもの』というステッカー)

 
 ――中国で大規模な反日デモが起きてから1ヵ月が経ちましたが、この間どのくらいの頻度で中国を訪問したのですか。
 
 佐藤 8月は4~6日に上海、9月は16~18日に上海、19~21日は北京、25~27日は青島、10月に入って7~9日は北京に入りました。反日デモが最も激しかった9月17日の週には、上海と北京にいましたが、私自身はデモに遭遇していません。ただ、上海では日本の領事館近くの道路が封鎖され、公安の車が多数止まっているのは見ています。
 
 ――日本人として身の危険は感じましたか。
 
 佐藤 私は何度も中国に行っているが、今回の対日感情は過去最悪だと思う。2回に1回はタクシーに乗ると、運転手から『お前、どこの国の人間か』と聞かれる。時間帯や場所的にある程度安全だと思えば、『日本人だ』と答えたが、夜や人影のないところを通っているときには『韓国人だ』と応対した。そうしなければ、すぐに降りろと言われかねない雰囲気でそうなったらタクシーは拾えないからだ。
 
 ――なぜ、この時期に中国訪問を繰り返しているのですか。
 
 佐藤 敢えてこの時期に訪問しているわけではない。SATO社労士法人などSATOグループの業務で中国の企業と提携する商談を進めており、それが順調に進んでいるため訪れる回数が増えているだけのこと。
 
 ――政治的対立は日系進出企業にも大きな影響を与えていますが、“政冷経冷”の状態をどうみていますか。
 
 佐藤 領土問題を解決するのは非常に難しいだろう。お互いにお互いの主張を尊重し合いながら過激な行動はしない関係を保たなければならない。
今回私が中国に行って、中国人から言われることは、今回の領土問題は日本が仕掛けたものだということ。つまり日本が均衡を破ったと。だから、対抗処置を我々が取るのは当然だと。これまでの中国人の日本人に対する感情の発露の大きなきっかけになったのが領土問題だったと捉えている。
 
 ――経済界としてはどう対処すれば良いでしょうか。
 
 佐藤 我々経営者や経済界が総じてダメージを受けるのは否定できない。しかし、我々も中国と敵対することにはならない。中国は我々のナンバーワンの顧客。どんな会社もナンバーワンの顧客を相手にせず、2番手以下の顧客で成長発展することにはなりづらい。チャイナリスクと呼ばれているが、このぐらいのリスクをリスクと認識して中国との交流とかビジネスを控えることはないと思う。もっと言えば控えてはならないというのが私の意見です。政治環境が悪い時にそれをカバーするのは文化だったりスポーツだったり経済だったりすべきだと思う。
 
 ――進めている交渉に影響は出ていませんか。
  
 佐藤 交渉は確かに難しくなっている。相手先企業のひとつは完璧な国有企業。共産党政府の意向もあるので、最終的に業務提携の契約締結という決着がつくのかどうかは不安な面もあるが、交渉は今まで通り双方で継続している。
 
 ――業務提携が不調に終わる可能性もあるわけでいすね。
 
 佐藤 延期される可能性はある。ただ、それを恐れてはだめ。この時期に一生懸命やってこそ人間関係は本物になる。
 
 ――業務提携とは別にSATO社労士法人は上海オフィスを開業しますね。
 
 佐藤 これまで提携している日系会計事務所の中国マイツグループのオフィスを間借りしてマーケティングに1年間費やしてきたが、11月1日から正式に上海オフィスを単独で開設する。
 
 ――SATOグループは、中国戦略を弱めないということですね。
 
 佐藤 私の意見としては、みんなそうあるべきだと思う。経済、文化、スポーツは今まで通りの交流、挑戦を続けるべきだろう。中国からは手の平を返されるようなことをされているが、私たちはそうはならない。チャイナリスクだからと言って事業を諦めてしまうことにはならない。
 
 日本中で中国は危ない、行かない方が良い、撤退するのが安全策というコンセンサスが生まれている。何を言っているんだと思う。一番の顧客から逃げたら倒産する会社も出てくるだろう。米国を抜いて一番の市場である中国を外して、別の東南アジア諸国で事業ができるかと言ったら、少なくとも後10年間は事業にならない。中国は決して無視できる市場ではないというのが、私の結論だ。

※2012年10月20日、記事一部修正

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