北海道経営未来塾でTOTO張本邦雄相談役が講演、「ウォシュレット」を生んだ企業文化

経済総合

 北海道からニトリホールディングスの似鳥昭雄会長やアインホールディングスの大谷喜一社長のような、全国に通じる経営者を育てようという産官協同の「北海道経営未来塾」(長内順一塾長=未来経営研究所社長)の第3回講座が10月26日、札幌市中央区の札幌パークホテル1階テラスルームで行われた。講師は、TOTO(本社・北九州市)相談役の張本邦雄氏、テーマは「ウォシュレット開発の進化」。同未来塾の6期生35人が張本氏の講演に聞き入った。(写真は、講演する張本邦雄氏=北海道経営未来塾提供)

 張本氏は、1951年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後に東洋陶器(現TOTO)入社、取締役常務執行役員、取締役専務執行役員を経て2009年に社長、14年会長、20年から相談役。最初に張本氏は自らの生い立ちに言及。「私は、東京両国の鉄工所の倅(せがれ)。お袋が経理を担当し、親父が社長で工員が3人の5人所帯の町工場だった。親父は私に子どもの頃から『お前は学を付けてサラリーマンになれ』と言っていた。理由を聞くと、『この仕事は人脈の商売だから、俺の人脈をお前は引き継げないからだ』と言う。当時の年商は5000万円くらいだったが、ある時、親父はNC制御の最新機械を4000万円で購入した。ところが機械は来ない上に手形も盗まれてしまった。権勢をふるい遊びまくっていた親父が、その一件で見る影もないほど憔悴した。当時私は大学生だったが、そんな親父の姿を見て『こんなに人は変わるのか』と実感した。結局、手形が戻ってきて何とか商売を続けることができたが、私の人生にとってこの経験は大きな影響を与えた」と経営者としての資質がこの時期に形づくられたことを強調した。

 続いて、「ウォシュレット開発」に移り、契機になったのが、オイルショック後の住宅着工の激減だったことを披露。新築向けの衛生陶器の販売が陰り、会社はリフォーム市場でも販売が見込めるウォシュレットを主軸にする決断をして全精力を商品開発につぎ込んだ。アメリカの医療福祉機器をベースに、おしりの位置やノズルの最適な角度など手探りの積み重ねで精度を高め、1980年に「ウォシュレット」として商品化した。

 商品化のカギになっのは、温度制御や水流量制御のICだったという。「この部分に使うICは、湿度が高いとすぐに使えなくなってしまう。目をつけたのが、信号機に使われていた小糸工業のIC。同社のICがなかったらウォシュレットはできなかった」

 消費電力を抑えるために、水を水玉にして噴射する技術も開発した。「水玉が連続して出て、ある時点で水玉同士がぶつかって大きくなり、従来通りの洗浄力を維持できるようになった。いかに水を減らすかを考えた結果の成果」と述べた上で、こう続けた。「水玉の中に空気を含ませることによってさらに消費電力を抑えることができたが、この技術は、当社のシャワーを作っている事業部が確立した技術。これによって35%節水しても、洗浄力と洗浄感を維持することができた。ただ、メーカーでは事業部ごとに壁があるのが一般的。他の事業部で確立した技術を、そのまま他の事業部に横展開できるところは少ない。事業部間の壁を壊すような企業文化があったことがブレークスルーになった」と話し、目的に向かって社内の壁を取り除くことが大切だと強調した。

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