北海道経済同友会と北海道21世紀総合研究所は27日、札幌出身で東京大学大学院経済学研究科教授伊藤隆敏氏の講演会を札幌パークホテルで共催し約350人が参加した。テーマは『日本経済復活の課題~円高と経済復興』。講演はTPP問題にも及び、伊藤氏は「北海道の農業界は先頭に立って反対しているが、北海道の農家や農業者は国内で一番競争力があるのに規模拡大の旗を振らないのは残念。是非考え直していただきたい」と述べ、「北海道の農業者が反対する対象はTPPではなく、政府の減反政策や戸別所得補償制度ではないか」と持論を熱く語っていた。(写真は講演する伊藤隆敏氏)
伊藤氏は小樽商大学長を務めた伊藤森右衛門氏の子息で一橋大卒。一橋大の5期下でゼミ同門が高橋はるみ知事という縁があり、北海道への思い入れは深い。
連日、最高値を更新している円高について、「実質実効レートという指標で見ると必ずしも円高ではない。過去20年、日本はマイナス1%ずつデフレが続き、米国はプラス2%のインフレで60%の格差が出ているから1ドル=40円になっても不思議ではない。現在の水準は1995年当時の80円を切る円高よりも30%ほどの余裕がある。これが60円になったら超円高で大変なこと」とし、「トヨタやキヤノンなど大企業は海外で7割生産して稼いでいる。有価証券報告書をまとめるために海外のお金を日本に持ってくるときにちょっと困ったなという程度」と語った。
問題は国内の中小企業と海外展開の遅れている企業。「工作機械メーカーにはオンリーワンの技術で円建て輸出しているところもあり、円高でも困らない強い企業を作ることが一番大事なこと。私は15年間、デフレを何とかしなければ日本経済の根本的な回復にならないと言い続けているが、日銀は日本経済が回復しなければデフレは治らないと言っている。中央銀行の責務は大変大きい」とインフレに向かう施策の必要性を説いた。
震災復興の財源については、ただちに消費税増税で対応し世代間の公平性を保ち、しかも団塊世代が大量退職する前に増税することが必要で所得税や法人税に頼れば成長を阻害すると指摘。電力不足については、ピーク時の電力利用権を売り買いするマーケットを創設すれば市場メカニズムが働いて非効率な一律削減には至らないという考えを示した。
TPPについて、「大企業有利、農業いじめ」という見方が強いことに「TPPに加盟しても大企業は何も変わらない。TPPをやるのは大企業に日本に残ってもらい雇用を守るのが目的」と推進論を披露。
とりわけTPP反対の声が強い北海道について、「農業団体が反対するのは分からないでもない。関税撤廃で競争が厳しくなり一部農産品が輸入品に晒され農家が困ることになるかも知れない。ただ、農産品への影響についての数値は膨らませたもの。コメはオーストラリアや米カリフォルニアでは水不足で輸出できる環境にはなくタイはコメの種類が違う。コメの関税撤廃で北海道のコメ農家が困ることはない」と牽制。
農業界が戦うべき相手は、減反や戸別補償で弱い農家を保護し農業の国際競争力を奪っている農政、また農家のブランド化に逆行している農協だと強調した。
「北海道の農業は、国内で一番競争力があるのだから、中間流通のコストを減らしブランド化を推進、輸出する力をつけていくことが大事。北海道農業は国内農業生産の先鞭をなる機会」と持論を展開、「そのためにも物流面を支える北海道新幹線を早期に札幌まで延伸し、航空、道路など複数のチャンネルを確保しておくべきだ」と締めくくった。