SATO社会保険労務士法人は、中国8都市で日系進出企業の経営支援をしている上海マイツグループと業務提携したのを機会に、上海駐在7年の経験がある松浦隆祐東京マイツ取締役を招いた講演会を実施、約60人の道内経営者らが中国進出のポイントに聞き入った。松浦氏は、「中国への投資ブームは終わった。これから進出する企業は各社の戦略がハッキリしていなければ成功はおぼつかない」とシビアで現実感のある経営戦略が不可欠と強調した。(写真は講演する松浦氏)
中国は現在、第12次5ヵ年計画を遂行中で、労働集約型産業を海外から呼び寄せて経済成長を遂げる方向から、新興産業育成へ経済発展パターンの転換を加速している。従来型パターンで進出しても中国政府の根本政策と合致していないため発展性は低い。
また、一人当たりGDPも世界銀行が高所得国と認める1万ドルを上海が2008年に、北京も09年に超えているが、上海では09年から10年にかけて逆に減少しており、主要都市ではひたすら成長に突っ走っているわけではないという。
今後の経済を占う意味で人口問題もポイント。出生率は、10年に2・56人、30年には2を切り、一人っ子政策の弊害で高齢化率が高まると見られている。高齢化が急速に進展している日本に近づかないためには、中国政府が一人っ子政策を辞めるかどうかがポイントになるとされている。
日本企業の中国進出は、80年代後半からが1次、93年の市場経済導入以降が2次、01年WTO(国際貿易機関)加盟後が3次、10年の上海万博以降が4次で、現在はこの4次の中にある。1~3次の電子部品や製造業からサービス業へ日系企業の中国進出業種は大きく変化している。
どんな業種の進出が増えているか。松浦氏は、「ヘアーサロン、洗車場、銭湯、精神科医の相談が増えている」と言う。ヘアーサロンは上海や北京など都市部の外資系で働くOLの高所得化に伴いニーズか高まっているほか、洗車は中国のノウハウが乏しく、銭湯は都市部で突然噴出した温泉を利用するために政府が日本企業に事業化を要請したケースがあると具体例を示した。
精神科医については、「大卒就職率が50%を切っていることや一人っ子政策による社会経験不足によって大卒者などに心の病が増えており、メンタルヘルスケアに蓄積がない中国を補うように世界中から進出が進んでいる」のが実態だという。
そのほかにも、専門学校やビジネススクール、消費者金融で進出は活発。逆に「アパレル小売りは店舗物件の立地が勝負のポイントになるが、物件が出てこないことや出てきたとしても家賃が高くて経営は厳しい」と述べた。
日本と同様、中国でも企業の勝ち組と負け組が二極化している。上海マイツの手がけた進出企業の中で、新規進出年間150社に対して清算は30件、「4分の1から5分の1は進出しても清算・撤退しているのが現実だ」としたうえで、「中国はモザイク社会で良い話もひどい話も玉石混交しているが、どの話も正しい。新聞やテレビの報道に一喜一憂していては成功はおぼつかない。成功するかどうかのポイントは、中国を下に見ないこと、さらに現地のニーズを自分の眼で確かめること」とアドバイス。
今後、中国経済は中国の企業と日系企業、それに欧米系企業の3つのプレーヤーが主要な役割を果たすとし、韓国、台湾の進出企業は脱落していくという見通しを示した。その理由として松浦氏は、「韓国、台湾の進出企業には中国に対するリスペクトが足りない。倫理的にもいかがなものかという進出案件が多い」との見解を示した。