15日に札幌で開催された札幌商工会議所と北海道商工会議所連合会の主催による「北海道経営未来塾公開講座」第4回講演会。講師に立ったドトールコーヒーの鳥羽博道名誉会長(79)は、『私の歩んできた道』をテーマにこれまでを振り返った。『長の一念ですべてが変わる』、『因果俱時』――鳥羽氏は二つの格言が大きなものを与えてくれたと強調した。(写真は、講演する鳥羽博道氏)
ブラジルに渡ったのは20歳の時だった。コーヒー園で現場監督の職に就き黒人たちと働いた。昼になると黒人たちと持参した弁当を半分ずつ交換して食べた。子どものころに習った柔道も役に立った。昼食が終わると、黒人たちと相撲のまねごとをして遊ぶ。柔道の心得があるから相手の巨体がコロンコロンと転び、笑いが渦巻いた。鳥羽氏は言う。「ブラジルで得たことは、人は権力で働くのではないということ。人間関係があれば気持ちよく働けることが分かった」
3年後、帰国して鈴木コーヒーに戻った。しかし、そこで見たのは先輩が社長から殴られる場面だった。得意先をライバル企業に取られ、怒った社長は先輩をなじり、手を出したのだ。ブラジルで経験した環境と大きく違う。労使一体の会社ではないことを実感した鳥羽氏は「厳しい中でも和気あいあいとした会社を作りたい」と鈴木コーヒーを辞めてしまった。お互いが尊重し合える会社を作りたい一心だった。
しかし、創業資金はゼロ。ブラジルで貯めた30万円は父親に全部渡したからだ。恩返しの気持ちを表したのだ。父親はその資金で工場を作ったという。
それでも何とか資金を借りて、1962年に立ち上げた会社を「ドトール」と命名した。ドトールとはポルトガル語でドクターのこと。ブラジルでは通りの名前に社会で貢献した人の名前を付ける習わしがあり、鳥羽氏は懐かしさもあってドトールの名を借用したのだった。赤羽に8畳1間の事務所を借りて中古の焙煎機で豆を挽き販売することにした。
ところが創業して日が浅いため品質が良くない上に会社はいつ潰れてもおかしくない状態。誰も買ってくれず、まさにいつ倒産してもおかしくなかった。「倒産するかもしれないと心配で、近くの神社に参拝して気を落ち着かせて帰るのが日課だった。何日か続けた後にハッと気が付いた。『明日を考えるから不安になる。明日潰れても良いから、今日一日を精一杯頑張ろう』と。真剣になると不思議と協力者が表れてきた」(鳥羽氏)