IMG_1923 苫小牧東部地域に広がる勇払平野の臨海部に北海道電力苫東厚真発電所がある。敷地面積約52万㎡、札幌ドーム11個がスッポリ入るほどの敷地に海外炭を利用する火力発電施設3機が稼働する。発電能力は合計165万kw、同社の全発電能力の22%を握る拠点だ。その苫東厚真発電所で現在、2号機の定期検査に併せて修繕工事が行われている。泊原子力発電所の全停止に伴い、高稼働運転を続ける火力発電所は故障と背中合わせ。少しの異常も見逃すまいと緊張感に包まれた苫東厚真発電所の定期検査現場に入った。(写真は、2号機タービンの点検作業。取材日は5月14日)
 
 
 陽光と海からの微風に包まれた苫東厚真発電所は静寂の中に佇んでいた。オイルショックで国が脱石油のエネルギー政策に転換した1973年、北電はこの発電所新設を決めた。当初、北電はここに重油専焼の火力を計画していたが、国の政策変更に伴って産炭地の企業として国内炭を燃料とする火力に転換、漁業補償問題が解決した76年の翌年から建設工事がスタートした。
 
 1号機が出力35万kwで運転を開始したのは80年10月、その後出力60万kwの2号機が85年10月、70万kwの4号機が2002年6月にそれぞれ運転を開始した。この間、3号機が98年3月に出力8・5万kwで運転を始めたが、05年10月に廃止されている。当初は国内炭を原料にしたが、今では6~7割がオーストラリア産の海外炭で占められている。
 
IMG_1880(写真は、保苅伸広所長)
 現在、1号機と4号機は運転中で2号機が4月3日に運転を停止、7月10日まで99日間の予定で定期検査が行われている。電気事業法によってボイラは2年に一度、タービンは4年に一度の法定検査が義務付けられているが事情によっては繰り延べが認められている。「2号機は本来、昨年に定期検査を実施する計画だったが冬の電力を確保するために半年程度繰り延べしてようやく4月から定期検査に入ることができた」(保苅伸広所長)
 
 今回の定期検査はボイラ部分のみが該当するが、前回のタービン定期検査で懸念事項があったためタービン部分も分解して点検している。3つの火力機はプラント建屋で一体化されており、1号から4号機までのタービンや発電機が半円形に並んで顔を出している4階部分は、幅25m、高さ60m、長さ340m。まるで巨大な格納庫のような空間が広がる。2号機のタービン点検が行われている作業現場では、分解された人の背丈以上もあるタービンに作業員たちの目が注がれていた。
 
 定期検査に併せてボイラ上部にある火炉ノーズ出口スクリーン管修繕と煤塵を除去する電気集塵器の内装品取り換えも行われている。火炉ノーズ出口スクリーン管は、経年劣化している縦1m90㎝、横60㎝のL字型の部分を取り換える修繕工事だ。これまでの定期点検では補修で対応していたが今回劣化が激しい507本が取り換え対象だ。電気集塵器は、2系統あってガスが入ってくる前側にある集塵板1680枚、放電線1万4760本を取り換える。
 
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(写真は、電気集塵器の内装品取り換え作業=右手前が電気集塵器)
 エレベータで4号機の最上階に行き屋上に出ると四方に視界が広がった。屋上は12階建てのビルに当たる75mの高さ。西側には貯炭サイロや整然と野積みされた石炭が見え、北側は平野が続く。構内を見おろすとクレーン4台を使った電気集塵器の修繕工事が行われている。火炉ノーズ出口スクリーン管と電気集塵器内装品の取り換え工事があるため定期検査に99日間を要する理由だという。この日は工事が始まって42日目、修繕工事を含めた定期検査は分解から点検、計測という工程に差し掛かっており丁度折り返し点にきている。
 
「すべての工事は6月下旬ころには終了して順次試運転を行い、異常がないことを確認して7月10日から本格運転に入る。夏の供給力を確保するためにも計画通り稼働できるようにしたい」(保苅所長)
 泊原発が3機とも停止している中で、苫東厚真発電所を含めた火力機は例年にない稼働率80%近くの高稼働運転が続いている。昨年は6月から7月にかけておよそ20日間に亘って火力最大機である4号機がボイラ内部の蒸気漏洩故障で停止、綱渡りのような需給状況を余儀なくされた。「火力機にもダメージが蓄積しており設備も人も疲れが溜まってきている。これからも安定供給を維持していくために泊発電所を早期に再稼働させ火力機を計画的に保善していくことが必要だ」(同)という。
 
 苫東厚真発電所では通常400人ほどが働いているが、2号機の定期点検と修繕工事によって倍の800人規模まで増えている。4月3日から現在までに定期点検や修繕工事に投入された延べ人数は約3万1千人、終了するまでにその数は延べ5万人になるという。計画外の停止は何としても引き起こさない――苫東厚真発電所の定期検査現場は、のどかな周囲の風景と対照的に張りつめたような空気に満ちていた。


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