支笏湖の北湖畔にある秘湯「丸駒温泉」を運営する丸駒温泉(千歳市支笏湖幌美内7番地)が8月30日、札幌地裁に民事再生法の適用を申請した。中小企業の再生を支援するルネッサンスエイト投資事業有限責任組合(東京都千代田区)がスポンサーになり、再建を進めることになった。将来的には、同組合が出資する会社が承継・運営し、100年続いた「丸駒温泉」は創業家から新たな経営の担い手に託される。(写真は、千歳市支笏湖幌美内にある「丸駒温泉」)

「丸駒温泉」を一度は訪れた道民も多いはず。支笏湖の温泉施設が集まっている支笏湖温泉とは離れた、北湖畔の恵庭岳の麓にポツンと一軒だけある秘湯。開湯は大正4年、今年は106年目に当たる。玄関を入ると創業時に掲げた「丸駒温泉」の屋号を複製した看板が置かれている。看板には千歳郡千歳村烏柵舞番外地、営業人佐々木初太郎の文字も記されている。

 温泉名に「支笏湖」でも「烏柵舞」でもなく、「丸駒」としたのはなぜか。開湯当時、背後の恵庭岳の麓では硫黄採掘が行われていた。運搬にはもっぱら馬が使われていたが、馬が怪我をしたときに癒したのがこの地だったという。当時、馬は労働に不可欠。初代佐々木初太郎が「丸駒温泉」としたことにその人柄が偲ばれる。
 創業以来の歴史を持つ天然露天風呂があり、今も足元から温泉が湧き出している。館内には100年の歴史を振り返るパネルが展示されており、秘湯の経営に心血を注いできた佐々木家や従業員の思いが伝わってくる。

 こうしたいわば土俗的温泉経営で100年続いてきた丸駒温泉だが、コロナの痛手が屋台骨を揺らした。売り上げは1年間で3割減少、借入金負担に耐えられなくなった。4代目の佐々木義朗代表取締役は自力再建を断念、負債8億3000万円を抱えて民事再生法の申請を決断した。

 既に再建を担うスポンサーが決まっている「プレパッケージ」方式での再生となり、ルネッサンスエイト投資事業有限責任組合が経営を握る。同組合は、本業には収益力があるのにコロナ禍で過剰債務に陥っている全国の中小企業を対象に債権買い取りや出資を行い、再生を支援することを目的に21年1月に設立された。中小企業基盤整備機構や北海道銀行、青森銀行などが出資しており、出資総額は191億円。

「丸駒温泉」の経営は今後、創業家から同組合が出資する企業に移ることになり、創業家は退く。4代目佐々木氏の決断は、「丸駒温泉」を存続させるための苦渋の選択だった。道内各地に残る土俗的温泉経営はどこも厳しい。コロナ禍が経営の逼迫度をさらに高めている。
(写真は、支笏湖の東湖畔から望む「丸駒温泉」)



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