小樽が北のウォール街として栄えた19世紀末から20世紀初めと同じ時代にイギリスの教会を飾ったステンドグラスとアール・ヌーヴォーを代表するエミール・ガレなどの作品を集めた美術館が7月23日(土)にオープンする。家具・インテリア販売のニトリホールディングス(本社・札幌市北区、本部・東京都北区)が開設するもので、小樽の歴史にさらに厚みを与えることになりそうだ。(写真は、旧高橋倉庫を使ったステンドグラス館に展示されている作品「神とイギリスの栄光」)
(作品はいずれも手の届く距離に展示されている=写真)
開設するのは、「ステンドグラス美術館」と「アール・ヌーヴォー美術館」。「ステンドグラス館」は、1923年に建築された木骨石造2階建ての旧高橋倉庫を利用したもので小樽市の指定歴史的建造物。大豆を収納する倉庫として使われていた。
内部に入ると極彩色のステンドグラスの数々に圧倒される。1階と2階、180坪に展示されたコレクションは70組140点。イギリスの教会で飾られていたころは太陽の光に照らされて教会の荘厳な空間を作っていただろうが、この倉庫には窓がないためLEDの間接照明で自然に近い光を使って当時の雰囲気を再現している。
高さ5mを超える作品もあるが、この美術館の圧巻は作品の数々を手の届く距離で鑑賞できること。鮮やかな色や顔の表情、髭の一本一本をガラスで溶かして作っていく職人の息遣いまで伝わってくる。
「アール・ヌーヴォーグラス館」は、1935年に建築された旧荒田商会の本店事務所を使用。木造2階建てでこちらも小樽市指定歴史的建造物。アール・ヌーヴォーを代表するガレ、ドーム兄弟の照明器具やガラスの器が約100点集められている。キノコのような独特の造形と色調、表面の幾何学模様など、時代の“鼓動”が伝わってくるようだ。
この時代にパリからイスタンブールまで走っていたオリエント急行の食堂車で実際に使われていた照明パネルも使っている。作品の多くを上から鑑賞できるように展示位置を低くしているのも特徴だという。
(旧荒田商会を再生したアール・ヌーヴォーグラス館2階は、19世紀末のヨーロッパに佇んでいる感覚になる)
(オリエント急行の食堂車の使われていた照明パネル=右上を利用してガレやドーム兄弟の作品を鑑賞できる)
展示作品は、ニトリHDの似鳥昭雄会長が事業である家具・インテリア製品の色づかいやコーディネートの参考にするためヨーロッパ、中東で収集したコレクションの一部。
2館は先行オープンするが、来年5月には1927年に建てられた旧三井銀行小樽支店を利用した日本近代絵画美術館(仮称)も開設予定。関東大震災後に建てられたため当時の最先端耐震構造を取り入れた鉄骨鉄筋コンクリート造りで、本館と別館を合わせた462坪のスペースに横山大観や岸田劉生の絵画、さらに東海道五十三次など約200点を展示する。
これら美術館のほか850坪ほどの庭園も整備して全体を「ニトリ小樽芸術村」として発信していく。
ニトリ小樽芸術村を運営するニトリパブリックの荒井功専務・北海道代表は、「点ではなく面として発信していく目的で村の名称にした。英語名はニトリ・オタル・アート・ベース。人材の輩出にも取り組んでいきたい」と話している。同村の総合プロデューサーは西洋美術鑑定士の田中健氏。
入館料は一般700円、中・高・大学生500円、小学生以下は無料。年中無休で開館時間は午前9時半から午後5時半。23日のオープン日はセレモニーがあるため午後3時の開館となる。
(写真は、ステンドグラス美術館)