「アベノミクス」による公共投資増で土木・建設業が先行する形で道内景気の底上げが始まっているが、道内の産業界全体、道内津々浦々に景気回復の実感が広がっているとは言い難いのが実状。産業を筋肉質にする「IT業界」も低迷期を脱するほどの需要確保や需要創造ができておらず、成長戦略を描き切れていない。そこで、今年設立30年を迎える北海道総合技術研究所(略称・HIT技研)の萱場利通会長兼社長(69)に、道内IT業界の発展には何が必要なのかを聞いた。(写真は、萱場利通氏)
「JR北海道の保線問題が大きくクローズアップされているが、技術の蓄積や後継世代へ正しい技術の伝播ができていないのは、何もJR北海道に限ったことではない。建設業や我々IT業界などを含めた技術サービス業のすべてに通じる問題だ。端的に言えば、デフレ下の失われた20年とそれに追い打ちをかけたリーマンショックによって、省コスト経営、省人化経営が企業や組織の存続には避けられなかったため、いわば断層のように技術の継続性が断ち切られているためだ」
「それが、今になって公共投資増による仕事量の増加が消化しきれないという構造問題を生んでいる。仕事があっても、それをこなせる人材の不足は顕著で、こと IT業界を見ると道内ばかりでなく全国的にそういう状況だと言える」
「この20年間、人や技術を育てること、磨くことに経営資源を注ぐことがおろそかになった結果としてJR問題が象徴的に噴き出したと私は思っている。よって、今必要なことは、仕事の前に技術ありきという原点に立ち返り、人材教育、人材育成に企業が投資できる環境を政府が整えることではないか。アベノミクスの成長戦略も結構だが、人材があってこその成長戦略であり、即効性にウエートを置いた公共投資増では真の成長は見込めない」
「ITの大きな市場はこれまで流通、サービス、金融の領域だった。しかし、それらは成熟マーケットになっている。IT業界の成長には新しいマーケットの開拓が迫られている。私は、その一つが第一次産業だと思っている」
「農林水産業は、後継者不足が顕著で産業のカタチが切り替わる萌芽期にある。国際競争力を持った強い農業を育成するうえでも、ITと一次産業の融合は時代の要請だろう。大規模農業による効率的な生産体制、管理された環境の中で行う食物工場、海水温やプランクトンの分布を漁船の中でリアルタイムに把握できるシステムなどITが果たす役割は大きい」
「現在でも、一部のIT企業と経営感覚を持った農業生産法人などが先駆的な取り組みを行っている。一次産業分野のIT化事例を積み上げて行くとともに先端事例を広く紹介して、一次産業に関わる生産者の意欲を高めて行くことも大切。北海道が優位性を持っている一次産業とIT産業が結び付いていくことは、持続的成長に欠かせない要素になるだろう」
(談)