JR北海道が函館線大沼駅構内の貨物列車脱線事故でレール幅の異常を把握しながら補修をしていなかった問題で、道民並みならず全国から来道する観光客、ビジネスマンたちの同社への信頼は完全に失墜してしまった。見えてくるのは、経営者不在という事態だ。誰が身体を張って経営理念を組織の末端まで浸透させて最終の責任を取るのか。鉄道事業と非鉄道事業を資本的に明確に分割、鉄道事業をJR東日本に譲渡するような抜本策でもない限り、『JRリスク』に道民や観光客、ビジネスマンは怯えなければならないだろう。(写真は、JR北海道本社)
2年前の5月に発生した石勝線特急の脱線炎上事故以降、同社の安全対策は一進一退を繰り返してきた。事故や問題が起きるたびに対症療法のように善後策が打ち出されるものの、まるでそれを嘲笑うかのように「これでもか」と事故や事件が後を絶たない。
問題は経営陣の力量というよりも組織の在り方から出てくる構造的病弊だろう。
石勝線の事故は、文字通りJR北海道のパンドラの匣(はこ)を開く契機になった。1987年の国鉄分割民営化によって誕生したJR北海道は労組問題や合理化問題など影の部分の芽を25年間に亘って堆積し続けてきたことによって、まるでコップから満杯の水が溢れだすが如く次から次に問題を表出させている。
さる識者はこう言う。
「JR北海道は、分割民営化によって国鉄時代の縦割り意識と民間会社の依存体質という企業経営にとってマイナスになる部分が融合した第3セクターのようになった。3セクでうまく行っているところがないように、JR北海道は発足当初から問題を孕んでいた」
そのうえでその識者はこう指摘する。
「JR北海道が本当の再生をするためには法令順守というようなコンプライアンスの徹底では無理。最も必要なことはカバナンスの構築。企業という組織を経営する根本のガバナンスが不十分という結果が今日の人為的な事故、事件を招いている」
ガバナンスの欠如ということは、そもそもの組織の成り立ちに源泉があるのだろう。と、すればもう一度分割民営化の原点に立ち返り、100%の株を保有している国はガバナンスが効く体制を再構築すべきだ。
究極の解決策は、鉄道事業と非鉄道事業を明確に資本分けして、鉄道事業はJR東日本に譲渡するJR北海道分割策だろう。“安全の信用保証”が乗客に担保されない限り真の信頼回復には繋がらない。JR東日本との提携話は数年前にもあったが、東日本大震災によって立ち消えた。しかし、その後の復興によって可能性はゼロではなくなっている。
北海道新幹線新函館開業によってJR東日本にもメリットが生まれてくる。もちろん、そうなれば道内地方赤字路線の縮小廃止は避けられない。広域分散の北海道で「安全」と「経営」を両立させる鉄道事業の選択肢は限られているのが現実だ。インフラは信頼があってこそ成り立つことは言うまでもない。