【北のミュージアム散歩】第91回 奥尻島津波館 ~北海道南西沖地震犠牲者198の鎮魂~

連載 北のミュージアム散歩

「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
第91回は、奥尻町の「奥尻島津波館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第91回 奥尻島津波館
-北海道南西沖地震犠牲者198の鎮魂-

奥尻島津波館(外観)

 北海道南西沖地震は、1993年(平成5年)7月12日午後10時17分に発生した。推定震源地は奥尻島北方沖(北緯42.8度、東経139.4度)の奥尻海嶺周辺で、震源の深さは35㎞、マグニチュード(M)は7.8。島内は震度6の烈震で、北海道南西部から東北地方北部にかけて激しく揺れた。地震が発生してから数分後、島内を時速500㎞の大津波が襲い、藻内地区で最大遡上高31.7mを記録。さらに津波火災も発生。青苗地区の津波被害が最大であった。人的被害は死者198人、行方不明者23人、建物被害は1350棟で、被害総額は約1243億円にも上った。平成の北海道を襲った地震では、2018年(平成30年)9月6日に発生した北海道胆振東部沖地震よりも被害が大きいが、全道でのブラックアウト(広域停電)は起きなかった。

奥尻町は島の災害の痛ましい記録と、経験と反省から得た防災への教訓を後世に伝えるために、地震発生から8年後の2001年(平成13年)、青苗地区に津波館を開館。館内は1階と地下からなる。希望すれば、館内職員による施設案内がある。

館内の展示物1:展示ホールの展示物

 1階の展示ホール前には、「津波の爪痕」と題した大きなタペストリーがあり、左隣には青苗岬にある徳洋記念碑のミニチュアがある。青苗地区の低地は震災ですべての建築物が壊滅状態になったが、記念碑だけは倒壊を免れた。右隣りはDVDコーナーになっており、震災時の報道映像(ニュースとワイドショー)及び追悼式典の映像を鑑賞できる。その他、震災発生時の奥尻町立稲穂小学校(現在は廃校)の日誌、自衛隊からの児童向け支援物資、青苗沖海底から見つかった遺品、兵庫県浜坂町まで流された標柱、島内の被災箇所の模型、青苗地区の地震前後と復興時の航空写真の展示もある。

展示ホールは、島民の犠牲者を鎮魂するために「198のひかり」と題した空間モニュメントがあり、198のステンドグラスを用いた光で再現している。それを取り囲むように壁には、地震発生から復興までの様子を写真家の津山正順が撮影し、『朱炎と玄濤』と題した約40枚のパネル写真を展示。さらに、被災した小中学生の書いた詩と作文が12点あり、札幌市立常盤中学校の生徒から寄贈された千羽鶴もある。入口近くにあるオブジェは札幌のアトリエブンクによって制作され、震災の様子を「振動」「希望」「生起」を石、「波・炎」をアルミの造形物として表現したものである。そして、「メ朱炎モリアルプレート1993」と「希望のまち」の2枚の金属板には、テーマメッセージと震災の記録の他に、1998年(平成10年)3月17日に越森幸夫町長によって地震復興宣言したことが刻まれている。中央には野村工芸によって制作された、48のジオラマ(立体模型)がある。1~15は縄文時代から平成初期(震災前)までの奥尻島の歴史の紹介、16~36は震災直後の様子、37~48は島の復興を表現している。

館内の展示物2:天皇皇后両陛下と秋篠宮両殿下の訪問時の写真(『朱炎と玄濤』より)

 地下は映像ホールになっている。地震の発生から復興までをドキュメントで綴った『災害の記録』のDVD映像を、最新の高細度ビデオプロジェクターを使い大迫力のドルビーサウンドで再現する。

映像ホール近くには、「匂玉物語」と題する島の遺跡(青苗遺跡等)から発掘された石器や土器の展示コーナーがある。その中でも注目すべきものは、丁字頭(翡翠)勾玉である。1976年(昭和51年)に墳墓の中から副葬品として発見され、鑑定の結果は糸魚川産であると判明。持ち主は阿倍比羅夫の部下で、能登地方出身の能登臣馬身竜説があるが確証はないという。

館内では震災30年特別企画展示として、歌手の泉谷しげるによる被災者救援活動についての展示があった。泉谷は震災の映像に衝撃を受けて、被災者の支援活動を開始した。来島時に島民と交流した時の資料や写真、島内広報誌、サイン入りのギターがあった。泉谷は「お前ら募金しろ!」の合言葉で多くの人達に募金を呼びかけ、最終的に約190億円の義援金が集まった。このことは今でも、島内で語り草になっている。

館内の展示物3:「津波の爪痕」のタペストリーと泉谷しげるのギター

 2023年(令和5年)7月12日、記念追悼が震災慰霊碑「時空翔」前で開催された。新村卓美村長が献花し、防災行政無線を用いて「私たちはあの災害を風化させることなく、災害から得た教訓と経験を未来に伝えなければなりません」と島民に呼びかけた。

利用案内
住所:〒043-1521 奥尻町字青苗36番地
電話:01397-3-1811
FAX:01397-3-1811
開館時間:9:00~17:00(4月下旬から10月末日)
休館日:毎週月曜日(ただし月曜日の祝日は開館、7・8月は無休)、11月1日から4月中旬
入館料:大人:520円(団体料金は470円)
学生(小・中・高校生)170円 (団体料金は150円)
アクセス:奥尻町有バス青苗方面に乗車して奥尻島津波館前下車

付近の見どころ:徳洋記念緑地公園
地震による火災と津波によって、壊滅的な被害を受けた青苗地区の青苗岬近辺を、公園として整備した。災害の記憶を伝えるために、彫刻家の流政之が制作した慰霊碑「時空翔」がある。

文・写真:大渕 基樹

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