「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
第85回は、羽幌町の「北海道海鳥センター」です。ぜひご愛読ください。
(合田一道)
■第85回 北海道海鳥センター
-羽幌町で海鳥の鳴き声を聴く-
北海道海鳥センター
北海道海鳥センターは、環境庁(現環境省)が希少野生動植物種の保護を目的として、1997年(平成9年)に羽幌町に設置された。日本で唯一の海鳥専門施設である。天売島を中心とした海鳥類の調査・研究、保護増殖事業を進めるとともに、海鳥を中心とした海洋環境の保全をテーマに普及・啓発事業を展開している。
館内では、北海道の主な海鳥繁殖地と天売島について説明している。天売島は北海道北西部に浮かぶ離島で羽幌港から西30キロに位置し、面積約5.47平方キロ、周囲約12キロ、人口は2023年(令和5年)12月現在266人。世界有数の海鳥繁殖地で、ウミガラスの他8種類、約100万羽の海鳥が生息している。この規模で人間と鳥が共生している場所は、世界でもほとんど例がない。1982年(昭和57年)に、国設の鳥獣保護区に指定された。
隣は海鳥生態の紹介コーナーで、ウミガラス(オロロン鳥)、ケイマフリ、ウトウ、ウミスズメ、ヒメウ、ウミウ、ウミネコ、オオセグロカモメの8種類の模型などが並んでいる。これは、鳥獣模型制作の第一人者である内山春雄によるもの。
画像1:海鳥の生態についての展示
「オロロンライン漂着物展」と題した、海の環境問題を考えるコーナーでは、海の生物を苦しめる漂着物の実態を紹介。道北周辺の海岸や、羽幌町サンセットビーチでビーチコーミング(海岸に流れ着いたあらゆる漂流物を収集、調査すること)した多くの貝類、漁具やガラス玉、玩具などが並んでいる。
次の「オオウミガラスの悲劇」は絶滅の危機を説明するものだ。オオウミガラスはウミスズメ科の最大の鳥で、1844年(天保15年)に絶滅した。この鳥の模型も内山によって制作された。
また、ウミガラス、ケイマフリ、ウトウの生息状況をパネルや模型、写真、小型監視カメラの映像を使って説明している。この3種の現時点での生息状況は、ウトウは絶滅の恐れはないが、ウミガラスは国内絶滅危惧ⅠA類、ケイマフリは国内絶滅危惧種Ⅱ類で、環境省のレッドリスト(絶滅危惧種)に指定されている。
ウミガラスは、天売島が日本国内で唯一の繁殖地で、最近減少してしまった。繁殖地を再生するために、環境省は羽幌町と地元関係者と協力し、デコイ(模型)や音声装置を設置して調査している。ウミガラスの生息状況は2003年(平成15年)には13羽の飛来だったのが、センターの職員と羽幌町の努力が実を結び、2022年(令和4年)は100羽以上に回復した。
映像ホール(海鳥シアター)では、「Wonder Island “Teuri” ~海鳥と共に生きる島」(約13分)、「天売島~小さな地球のメッセージ」(約20分)と題する2本の映像を流している。内容は、ウトウやウミネコの繁殖生態及び、天売島の生活や自然を紹介している。
画像2:左の絵画は天売島の自然を描いている
ホールのすぐ隣の「さえずりや」は、鳥の鳴き声を紹介するコーナーである。羽幌の海鳥をはじめ、多種多様な鳥の鳴き声を、バードボイスペンを操作してメニューをタッチして視聴する。
同センターの最も大きな展示物は、天売島西海岸にある崖面を再現した海鳥繁殖地のジオラマである。このジオラマの海鳥の模型は、天井まで届きそうな大きさで、札幌在住の北尾久美子によって作られた。海鳥の模型と音響・照明演出によって観察することができる。
画像3:天売島の海鳥コロニーのジオラマ
2階へ続く階段には、ウミガラスやケイマフリの写真が展示されている。昭和30年代から40年代の天売島の断崖の写真を見ると、数えきれないほどのウミガラスがそこにいた。その後の環境の変化に伴い、飛来数は大きく減少した。さらに、海鳥8種類の卵を再現。ほぼ実物大の重さで、手に取って実感することができる。
函館出身の作曲家廣瀬量平は、更科源蔵の詩集などから「オロロン鳥」、「海鵜」、「エトピリカ」、「北の海鳥」の4作品を選び、北海道の海鳥の情景を思い描いて、混声合唱組曲『海鳥の詩』を作曲。1977年(昭和52年)に文化庁芸術祭参加作品として発表した。
利用案内
住 所:〒078-4116 羽幌町北6条1丁目
電話案内:0164-69-2080
開館時間:9:00~17:00(4月~10月)
9:00~16:00(11月~3月)
入 館 料:無料
休 館 日:月曜日、祝日の翌日、年末年始
アクセス:沿岸バス幌延留萌線で「羽幌南大通1丁目」または「羽幌北大通1丁目」下車して徒歩5分、または羽幌本社バスターミナルより徒歩10分。
付近の見どころ
「はぼろバラ園」
道の駅「ほっとはぼろ」内にある。北方系を中心としたフェアリープリ ンスやチェシャーなどの希少種をはじめ、世界のバラ3,000種、2,000株が咲き誇る。開園期間は5月上旬から10月下旬。
文・写真:大渕 基樹