第28回 室蘭 港の文学館 ~重工業の街にたぎる文芸への情熱~

連載 北のミュージアム散歩

 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第28回は、室蘭市の「港の文学館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第28回 室蘭 港の文学館 ~重工業の街にたぎる文芸への情熱~

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室蘭 港の文学館

 国道36号線を進み太平洋と内浦湾に突き出た絵鞆半島に入ると、ほのかに潮の香りが漂う。室蘭市は明治後期から鉄の街として発展した、北海道屈指の重工業都市である。また海と山に囲まれた風光明媚な地形は観光スポットが数多くあり、近年注目の「日本十大工場夜景」の一つに数えられている。

 実は室蘭市は3人の芥川賞受賞作家を輩出している。港湾と鉄の街のイメージが強いが、その陰で素晴らしい室蘭文学が育っている。
 港の文学館は昭和54年、室蘭の文学遺産が散逸することを懸念した当時の岩田弘志市長が、芥川賞作家 八木義徳らと発起人となり文学館設立に向けて奔走した。そして昭和63年10月、旧海員会館の建物を使い市立室蘭図書館付属文学資料館として開館、愛称を「港の文学館」とした。
 その後、平成25年に㈱カナモトが所有するレストラン「プロヴィデンス」の建物を室蘭市が借り受ける形でリニューアルオープンし、今年は開館30 周年を迎える。

 JR室蘭駅のロータリーから徒歩3分程。レンガ造りの2階建ての瀟洒な洋館はまるで小説の舞台のような雰囲気だ。重厚なドアから中に入る。
 館内は豪華客船にちなんだ装飾とステンドグラスが施され、格調高い上質な内装に思わず息をのむ。吹き抜けの天井を見上げるとクラシカルな雰囲気のシャンデリアが柔らかく周囲を照らしている。すべてが丹念に磨き上げられ、手入れが行き届いていて美しい佇まい。

 受付から入って正面は芥川賞、大江健三郎賞、谷崎潤一郎賞を受賞した近年活躍中の長嶋有コーナー。略年譜、著書のほか、小学生時代の作文や学級だよりが展示されている。なかでもユニークなのが、「長嶋ガチャ」。作品に登場するキャラクターの缶バッチがガチャポンの中に入っていて、1 回100 円。長嶋ファンなら何回もチャレンジしてしまいそう。
 正面右手には昭和63年に芥川賞受賞した三浦清宏エリア。左手の常設展示コーナーには室蘭ゆかりの作家の資料が展示されている。小説ばかりではなく、アイヌ民族学者の知里真志保、漫画家のいがらしゆみこ、写真家の吉田ルイ子など、多士済々な約40人もの著名人が名を連ねている。

 奥へ進むと、昭和19年戦時中に芥川賞を受賞した、八木義徳の記念室が設けられている。系図、略年表、創作資料が整然とならび、川端康成からの書簡も公開されており、室蘭文学の礎となったことが偲ばれる。
 常設作家著作本コーナーには、著者や収集家からの寄贈本が書架にずらりと並んでいる。中でも圧巻は、秀痴庵文庫。書誌蒐集家田中秀雄氏のコレクションで、大正末期からの雑誌の創刊号、貴重な初版本、漫画雑誌の初刊号など約4,000点が収蔵されている。保存状態も良好で、背表紙を眺めているとその時代の空気が伝わってくる。マニアならずとも時がたつのを忘れてしまう。

 市民文芸コーナーには室蘭文芸結社の出版物が展示されている。小説だけではなく短歌、俳句、詩と多岐にわたりその数約30。この街には文学が深く根ざしている。
 館長の横田挺一さんは
「当館は日本でも有数な美しい文学館です。建物の素晴らしさもさることながら、館のスタッフ18名は全員がボランティアなんです」ともう一つの特徴をあげる。

 受付や清掃などの日常の業務のほか、ギャラリートーク、ミニライブの開催、特別展の企画、文芸講座など盛りだくさんの行事のすべてがボランティアで行われているという。
 そして約180名の文学館の会会員(年会費2,000円)がその活動を支えている。
 2階のカフェコーナーではドリンクが無料でふるまわれ、挽きたてのコーヒーが香しい。
 全国でも珍しい官民一体で運営されている「港の文学館」は、鉄の街の文化を築き上げてきた市民の情熱を存分に伝えてくれる。

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館内光景

利用案内
所  在:室蘭市海岸町1-1-9
電  話:0143-22-1501
交  通:JR室蘭駅から徒歩3分 駐車場有
入 館 料:無料
開館時間:AM10:00~PM5:00
休 館 日:月曜日/祝日の場合は翌日 年末年始

付近の見どころ:
白鳥大橋記念館
20年前に建設された白鳥大橋の傍らに建つ記念館。大橋建設の橋梁技術や室蘭港の歴史を紹介している。道の駅「みたら室蘭」が併設され、室蘭のご当地グルメが販売されている。

文・写真 渋谷 真希

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