地域密着型金融シンポジウムが7日、北海道財務局の主催により札幌市内のKKRホテルで行われた。道外から第四(だいし)銀行(新潟県)や大阪市信用金庫(大阪市)の事例が発表され、道内では大地みらい信用金庫(根室市)の取り組みが紹介された。また、齋藤一朗小樽商科大学教授をコメンテイターに北洋銀行の関川峰希常務などを交えたパネルディスカッションも行われた。(写真は、パネルディスカッション)
このシンポジウムは2003年から道財務局が毎年開いているもので、地域密着金融の特色ある事例や先進的なノウハウを共有することで地域金融の一層の進展を図るのが目的。
第四銀行の小原雅之頭取は地域振興に向けた取り組みの代表例として十日町・松之山温泉の活性化支援事業を紹介。日本三大薬湯として知られる松之山温泉は20軒ほどの中規模な温泉地だが、中越地震以降に観光客が激減。温泉以外の目だった観光がないことや料理にも「らしさ」がないため観光客を惹き付ける魅力が乏しかったためだ。
第四銀行の提案で地域の旗振り役となる合同会社を設立、旅行企画や商品企画、料理メニューの開発を行い同行も面的な再生として積極参画。地元の棚田をモチーフにして『棚田鍋』も開発するなどしたところ、観光客はこの7年間で26%増えたという。「地域の危機感を共有し合同会社設立を提案、地域振興の方向性を示した事例」と小原頭取は語った。
また、同行では『だいし観光学校』を設立して各地の温泉地の将来を担う若手を集め実地研修などを実施しているほか、農業・食品分野の販路拡大商談会では事前に商談トークを訓練するなど商談力を向上させるセミナーも開催している。
続いて大阪市信金の河村正雄理事長は、商店街の振興策について発表。日本一長い商店街として知られる天神橋筋商店街では、関西大学と連携して商店街のコンシェルジェ『町街人(まちがいど)』制度を導入、大学の単位にも認められるため活性化に役立っていることを紹介。料亭の女将や老舗の社長に地域の歴史文化を語ってもらう『町街塾』もこれまでに12回開催、商店街に愛着を持ってもらう効果があるとした。
さらに空き店舗対策に力を入れている事例を発表。地方の物産などを空き店舗を利用して発信するアンテナショツプとしての利用を促し、平尾本通商店街では渡島信金との連携で南北海道の物産を販売するイベントも行ったことが紹介された。
河村理事長は、「こうした空き店舗対策を一過性のものにせず、如何に持続的に行っていくかが課題」と語った。
道内からは、大地みらい信金の辻昌一常務理事が地域みらい創造センターの活動について講演。昨年、北大産学連携本部と連携協定を結び、「産学官のつなぐ力の発揮にむけて取り組んでいる」して、これまでに12例が具体的に動きだしているという。若手経営者や後継者から同金庫の業務施策に対する意見を聞く『経営評議員制度』を導入、外部の目から見た同金庫の評価と要望を集約反映させることも行っていることを紹介した。
その後、『地域密着型金融の更なる進化(深化)』をテーマにパネルディスカッションが行われ、「渉外係として最前線で取引先と接触する行員には『三河屋さん』のような御用聞きになれと、言っている。お客様のニーズや要望を反映するマーケット・インの経営が地域密着の姿」(第四銀行小原頭取)、「取引先が世代交代しても信金と取引を継続してもらえるように“Jクラブ”を設置して信金ファンを増やしている」(大阪市信金河村理事長)、「地域産業支援部に食・観光、ものづくり、観光の3つの室を作った。現在は23人だが、この部署だけは毎年人員を増加させ、アグレッシブにサポートしていく」(北洋銀行関川常務)とそれぞれ意見を述べた。
また事業者代表として勇建設の坂敏弘社長は、「建設機械を所有している建設業者と持っていない建設業者や測量、コンサル専業者などとのM&Aのマッチングを金融機関にお願いしたい」、昭和交通加藤欽也社長も「頑張っている企業や業種だけでなく、そうでない企業や業種に対しても金融機関は情報を提供してほしい。第四銀行とは以前から取引があるが、未だに集金をしてくれる。道銀や北洋に頼んでも集金はしてくれない。集金業務を通じて行員と社員の関係が密になり様々な情報が入ってくる」と語った。
最後にコメンテイターの齋藤教授は、「地域密着金融は地味な取り組みだが地に足が付いたものでなければならない。特徴は①継続的・組織的に行われている②的を絞っている③大掛かりにせずシンプルな取り組み④ストーリーがある⑤顧客接点のマーケット・イン――の5つで繰り返しの中に進化と深化がある。金融機関の日常を見つめなおしてみる必要がある」と締めくくった。