「きのとやファーム店」は長沼昭夫会長の夢を実現した“農とお菓子を繋ぐお店”

経済総合

 洋菓子製造販売の「きのとや」(本社・札幌市白石区)は、27日(水)に“農”をテーマにした「きのとやファーム店」を札幌市清田区清田1条4丁目にオープンさせる。昨年設立した日高地方の直営農場「きのとやユートピアファーム」で生産する生乳や卵を利用して菓子製造を行う店舗で、菓子会社が原料段階まで遡上して一貫体制を構築するのは全国でも初の取り組み。「ファーム店」の特徴や出店の狙いなどについて、きのとやの長沼昭夫会長(72)に聞いた。(写真は、きのとや・長沼昭夫会長)

「『きのとや』を始めて37年になりますが、『ファーム店』はその集大成と位置付けています。もっと言えば私の人生の集大成とも言える店舗だと思っています。私は1972年に北海道大学水産学部を出てから北大スキー部の先輩たちが経営していた新冠町の農業法人に就職しました。しかし、オイルショックなどが重なり私は当初の目的を果たせず4年で挫折しました。そのことがずっと心に残っていて『もう一度(農業に)挑戦するぞ』という思いを持ちながらお菓子屋を続けてきました」

「考えてみると、お菓子屋は農産物加工業で卵や牛乳、生クリームはまさに主原料。その主原料を自らこだわりを持って生産しながらお菓子が作れれば良いと思うようになりました。2年前に会長になってから養鶏場や牧場の経営を真剣に考えるようになりました。そのころ、夢を追って農業に従事していたときに勤めていた農業法人の社長が、継続していた養鶏業を高齢のため辞めることを知りました。当時の思いが募り、養鶏場を譲り受けることにしました。やるからには酪農も手掛けようと考えていたら、隣町で離農される酪農業の方がいたのでその牧場を引き継ぐことにしました」

「そこで生産される卵や生乳を使ってお菓子を作る店が『ファーム店』です。『おいしいたまごのオムレット』や『おいしいたまごのプリン』、『放牧牛乳のプレミアムザクザク』など限定商品を作ります。また、併設するカフェでは『たまごかけごはん』、『オムライス』なども提供、卵や牛乳も直販します。店舗内にはミルクプラント棟も作って酪農牧場がある日高町から生乳で運び、低温殺菌して牛乳やヨーグルトを作りお菓子まで一貫自社生産をします」

「放牧している乳牛は40頭、平飼いの鶏は4500羽なのでファーム店のお菓子全部はまかなえません。一部に利用する程度ですが、原料から一貫生産するお菓子屋さんは国内でも当社しかないと聞いています」

「若いときに農業を志し、日本の新しい農業像をつくる夢を追って挫折したわけですが、72歳になってもう一度若いときに描いた夢をこうした形で実現できることにわくわくしています。大きく言えば、この取り組みが新しい日本の農業像になりうるかもしれない。いかに北海道の一次産品に付加価値を付けてお客さまに提供していくかが大事で、それを実践できるということです。このモデルが幅広く展開されていき、将来的には北海道産バターを製造、それを世界に輸出していくのが今の私の夢になりました」

「店舗のデザインは、都市の農風景がモチーフです。北海道の素材にこだわり内装・外装に道南杉を使用、壁面は調湿効果のある漆喰塗装をベースに一部に卵殻を素材にしたエッグタイルを用いるなどできるだけ自然由来の素材を使っています。ミルクプラントの設備導入に約9000万円投じるなど土地代込みの総投資額は約8億円になりました。集大成として大きな投資に踏み切りました」

「1997年に『琴似店』を路面店として出店して以来、23年ぶりの新規路面店です。これまで培ってきたものを『ファーム店』で表現したい。『琴似店』は年間3億5000万円くらいの売り上げがあります。『ファーム店』は同程度以上の売り上げを見込んでいます。農業を志した人間として、このお店がお菓子と農業の架け橋になればうれしいですね」(終わり)

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