三菱総研シニアエコノミストの武田洋子氏が札幌で講演、「円高性悪説からの脱皮」と「復興予算早期成立」を強調

経済総合

 三菱総合研究所政策・経済研究センターのシニアエコノミスト武田洋子氏が18日、日本証券アナリスト協会札幌講演会で『2011・12年度の内外経済の展望』と題して講演、震災からの復旧で生産体制が整った矢先に日本経済の先行きは再び視界不良となり、足元を取り巻くリスクとして①欧州債務危機②米国経済の低迷③新興国経済の急減速④円高―を挙げた。そのうえで、日本が取り組むべき課題は①円高を活かす道を探る②国内の産業構造転換を加速させる③欧州ソブリン問題に市場の目が向いている間に財政再建をしっかりやっていくこと―と指摘、「12年度のプラス成長のためには5兆円の復興予算の成立を遅らせないことが大切」と強調した。(写真は講演する武田シニアエコノミスト)
 
 東日本大震災で寸断されたサプライチェーンの復旧や自粛ムードも収まって7―9月は4四半期ぶりの高い成長だったが、10―12月は海外情勢の悪化と7―9月の反動でゼロ近傍の成長になる見通し。
 
 武田氏は、日本経済を取り巻くリスクとして前出の4点を挙げたが、その中でも欧州債務危機が大きな影響を与えるという。
 
「イタリア、スペインだけでなくフランスの国債にもリスクプレミアムが付き出している。欧州のソブリン危機は欧州の銀行危機に直結してくる。欧州の金融機関は、東欧など途上国向けや新興国向け与信が4割も占めており、自己資本比率規制による資産圧縮で途上国向け与信を圧縮する方向。銀行間で資金をやり取りするコストも上昇、欧州債務問題は第3ステージの国際的な与信の圧縮に繋がるリスクがある」とし、新興国には与信圧縮、株価低迷、通貨安の影響がジワジワと出始めているとした。武田氏はさらに新たなリスク要因としてタイの洪水問題も付け加えた。
 
 欧州債務危機の日本への直接的な影響は少ないが、世界を回りまわって及んでくる間接的影響は大きい。
 
 こうした苦境期に日本が中長期的に手を打つことが大事だとして、武田氏は円高を活かす道を探ること、国内産業構造の転換、社会保障と税の一体改革で財政再建の道筋を付けることを挙げる。
 
 円高については、「過去に何度も苦しんで円高対抗力を強めてきたが、日本には円高=景気悪化という考えが強いが、例えば火力発電比率が高まる中で石油・天然ガスの調達コストを抑制したりグローバル進出、ライバル企業をお得に買うチャンスでもある」と企業の円高に対するアレルギーを払拭すべきと訴えた。
 
 また、欧州のソブリン問題は対岸の火事ではなく、国債残高や財政赤字は日本も同じで、市場の目が欧州を向いている間に財政再建をしっかりやっていくことが大事と述べた。
 
 武田氏は12年度の実質GDP成長率が1・8%に下方修正されたことについて、「この成長率には12年度に5兆円の復興予算が付くことが織り込まれている。復興予算の成立が遅れると海外情勢の悪化が影響してくるために下振れ圧力が加わってくる」と復興予算の早い成立が1・8%成長には不可欠と主張した。

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