道内企業の倒産がジワリと増えている。帝国データバンク札幌支店が公表している8月の倒産集計によると件数は前年同月比14・8%増の31件、負債額は前年同月の2・3倍、84億4500万円となった。ただ、帝国データバンクの集計は負債額1000万円以上の法的整理による倒産のみで、負債額1000万円以下、私的整理による倒産は集計に含まれていない。企業再生に詳しい札幌の橋本昭夫弁護士は、「今後は私的整理による倒産がさらに増加するだろう」と予測しており、道内経済の実態を把握するためには表面化しない企業倒産にも注視していくことが必要だ。
リーマンショックから3年目となる今年秋、企業が金融機関から借り入れる融資の全額を各都道府県の信用保証協会が100%保障する「景気対応緊急保証」は既に終了から半年が経過、09年末に施行された中小企業金融円滑化法も後半年で終了する、いわば端境期に当たる。
緊急保証と円滑化法は、政府による資金繰り支援策として企業倒産の抑制に歯止めをかける効果があった。
この2つの施策が実施されている間に、景気回復を軌道に乗せ中小企業経営の底上げを図ることが目的だった。しかし、リーマンショック以降も景気刺激策を打てず、東日本大震災も重なって中小企業の経営環境は好転していない。政府による支援策は効果が希薄化しており、さらなる支援策か、景気の上昇局面がなければ今後企業倒産の増加は避けられない。
さる経済関係者は、「円滑化法は毒饅頭だった。返済猶予やリスケジュールを受けて、再生に向かっているのなら良いが、再生の果実は何も得られていない。つまり何も経営改善が進んでいない訳で、このままでは中小企業が衰退する。日本の産業は、中小企業の力で持っているが、その力が発揮できなくなる。新陳代謝を促し、力のある中小企業が伸びていく状況を作らなければ日本の産業に未来はないのではないか」と指摘する。
ところで、円滑化法の適用を受けている中小企業には再生の道は残されているのだろうか。
前出の橋本弁護士は、「円滑化法で返済猶予を受けている中小企業の多くは、民事再生もできないのではないか。民事再生は利益が出ていることが前提。民事再生は損益段階で利益が出て返済財源があることが不可欠で、過剰債務をカットして利益から返済していくことが要件になっている」と言う。
民事再生を適用できない中小企業は、私的整理ガイドラインに基づく私的整理へと流れ込むことになる。私的整理は一般債権にはなるべく手をつけずに金融機関の債権のみを整理するもので、「今後、私的整理が中心になるだろう」(橋本弁護士)。
冒頭で示した帝国データバンクなど信用調査機関の倒産集計は法的整理を対象にしており、私的整理は含まれない。私的整理によって企業分割し、生き残らせる企業と倒産させる企業を分け、倒産させる企業が特別清算など法的整理に入った段階で倒産集計にカウントされてくる。
私的整理が増えてくれば、倒産集計にタイムラグが生じてくるわけで道内経済の実態をリアルタイムで把握していくことが難しくなってくる。景気の実像を見究めた浮揚策を有効に打っていくためにも、倒産の全体像を正確に把握していく必要がありそうだ。