3・11東日本大震災の以前も北海道経済は低空飛行を続け、震災後も復興の代替需要は西日本が中心で北海道にはあまり波及していない。北海道も漁業を中心に被災地であることに加えて、もともと北海道には代替生産できる設備が少なく併せて物流障害も復興需要を細らせている原因。北海道大学大学院経済学研究科の吉見宏教授は、「北海道は経済圏をどう構築するのかという認識とインテリジェンス経済へ進んでいく中での位置取りを見定めておかなければならない」と唱えている。(写真は吉見宏教授)
東日本大震災以前の景気回復期も北海道は蚊帳の外だった。そのころの景気回復は製造業の輸出による外需主導で、こうした産業が道内に少なく北海道経済への恩恵は極めて少なかった。
震災後の復興需要も、北海道は置き去りにされている。
吉見教授は、「道内には代替生産を受け入れる設備、能力が不足しているためビールや製紙などを除けば代替需要が来なかった。物流障害も大きい。私はこれが一番の障害だと思っている。仮に道内で代替生産しても運べない。つまり物流路が十分に整備されていない障害は大きかった」と言う。
今後の北海道経済を展望すると、北海道経済圏のしっかりした構築が不可欠だが、「北海道は東北、サハリン、ロシア極東も含めた経済圏を構築すべき」と吉見教授は提言する。
「例えば、北電は北海道だけを営業圏にしていていいのか。東北を視野に入れることはもちろんだし、北電の発電所をサハリンに建てるとか、そういうことも想定していかなければならない。そうは言ってもロシアは政治的、経済的に問題はあるから『いやぁ、でもロシアはね』とみんなが言う。
私は出て行けば良いと思っているが、道庁高官の一人も私と同意見だった」
余談だが、吉見教授は道の各種審議会等で道庁との繋がりが深いが、北電の発電所をサハリンに作るという“吉見意見”に賛成したのはこの高官一人だったそう。
さらに、青函トンネルを高度利用することを吉見教授は主張する。「青函トンネルを道路として使うのです。ユーロトンネルのように車を積んで列車を走らせる。ガソリンの入った車は列車に積めないなど規制があるが、まず北海道から声を上げていかないと中央は動かない」
高速交通網もリスク分散には避けられない。複数の物流路がないと代替路が確保できず、経済の土台をなす物流が停滞してしまう。
北海道にはまだ一本目も完成していない。代替路となる二本目は夢の夢だが、物流路は積極的に確保していかないとリスクを回避できない事態に陥る。
吉見教授は、全国的に見ると経済は工場を作ることからブランドを含めたソフト経済=インテリジェンス経済へ進まざるを得ないと見通している。それは成熟経済の特徴だが、今の日本経済には、「これ」という方向性を出しえていないのも現実。しかし、この先100年間を食べていくにはインテリジェンス経済を強化していくことが不可欠と見る。
インテリジェンス経済とは、第三次産業、教育、研究であり、第二次産業ではブランド育成と販売、コンテンツ産業、観光など。しかし一次産業はなくならない。「道内での有望産業は農業と観光が上げられる。これらをどうインテリジェン経済に組み替えていくかが重要」と吉見教授は、北海道が100年先まで食べていくための経済戦略構築を促していた。
(8月末に行われたSATOグループオープンセミナーでの講演をもとに構成)