北海道エアシステム(HAC)の定時株主総会が30日に札幌市内で開かれ、異常降下した機材の運休による損失が6000万円になることが明らかにされ、丘珠空港への集約に伴う経費増から今年度に見込んでいた200万円の経常赤字がさらに膨らむことが確実になった。
今回の株主総会では役員陣の変更はなく、現体制が継続されることになったが、ガバナンスやコンプライアンスの欠如は現役員体制の中から生まれてきた。とりわけ乗員部長の資質を疑問視する声は多い。更迭人事はなぜ行われなかったのか。(写真は、6月1日の丘珠空港への集約を記念した鏡割りのセレモニー。左端が西村公利社長)
奥尻空港での異常降下は、多くの人命を預かる公共輸送機関としてあってはならないことだが、東京航空局がHACに下した事業改善命令では、異常降下そのものを問題にはしていない。
《東空安 第12号》と記された命令書には、事後の対応など安全管理システムが機能していなかったことを指摘している。
そもそもHACの安全管理を担う安全推進委員会は3人で構成され、委員長は社長の西村公利氏、副委員長は乗員部長、委員は運行部長。
西村氏は事務職出身で技術的な問題については十分な知識がなく、運行部長も整備職出身で機体操縦についての知識は不足している。
安全推進委員会の中で技術面を理解しているのは現役機長として操縦に携わっている乗員部長のみだという。
異常降下があった6月4日の夕刻、丘珠に戻った副操縦士は乗員部長にこの件を報告している。乗員部長は状況説明を求めたようだが、重大インシデントという認識はなかったようで、副操縦士がデータを取り寄せたい旨を乗員部長に要請しても、実際にデータを取り寄せたのは2日後だった。
この2日間の空白が、安全管理体制の不備、欠如を決定的なものにした。
乗員部長は、11日未明に国交省で異常降下について記者会見しているが、その席で『機長が目標高度を設定し忘れ、適切な操縦ができなかったことが原因』と機長の操縦ミスを暗に指摘した。
この時点で原因についての調査は行われておらず、『操縦ミス』と指摘する根拠はなかった。この会見を巡っては、他の航空会社に所属する機長らからも批判の声が上がっている。
見方によっては、安全管理体制の不備を糊塗するため、異常降下をした機長に責を負わせたとも取れる発言で、文字通りガバナンスの欠如を露呈した会見だった。
機長の世界はある意味で閉鎖的なムラ社会。地上業務など航空会社には様々な仕事があるが、操縦室には機長と副操縦士の2人だけが搭乗する。張り詰めた緊張感が漂う操縦室では、裸の人間が出てくるのは避けられない。機長は密室の君主にならなければならない宿命があるように見える。
しかし、密室の君主が操縦室を出た後もそのままでは、閉鎖的な村社会はますます萎縮して閉鎖的になってしまう。
HACの乗員部長は、密室の君主が機長というムラ社会の君主になっている構図が透けて見える。
HACには12人の機長が在籍する。そのトップが乗員部長だ。そして、その乗員部長が安全推進委員会の副委員長を務める。安全運行には機長同士の風通しの良さが不可欠。そのためにもムラ社会の君主を退場させる正常なガバナンスを機能させるべきだろう。