小樽商大・齋藤一朗教授の「信金教室」②

金融

 地域に密着した金融機関として展開する協同組織金融機関の信用金庫。人口減少や少子高齢化という地域の厳しい状況を反映、マイナス金利も響いてこれから先をどう描くかが問われている。信用金庫の現状と次の時代に繋がる処方箋は何か――。協同組織金融機関に詳しい齋藤一朗・小樽商科大学大学院商学研究科教授に分かり易く解説してもらう「信金教室」の2回目。IMG_1842(写真は、齋藤一朗教授)

 ――フェイス・トゥー・フェイスで得た情報は、なかなか組織で共有されないことがあります。むしろそうして得た情報は、個人のスキルによる産物で共有化しにくい面がありようです。
 
 齋藤 個人の経験値、経験で得た知識は組織の知識になかなか転換できない。そこはどの業種でも同じでとりわけサービス業はそういう傾向が強いのでは。
 
 ――個人の経験値を組織で共有化して平均レベルを上げていくことは、金融機関にとって必要になっていますね。

 齋藤 何よりも地域に密着しているのであれば、どの金融機関よりもわが信用金庫、わが銀行が『この土地については最もよく知っている』ということを確立しないと、お客はそのサービスの対価として高い金利をわざわざ払おうとは考えないですからね。如何に個人の経験値を組織の経験値に引き上げるか、その仕組みが重要になってきます。
 
 ――地域をよく知る、企業をよく知るためにはどうすればいいでしょう。何かヒントはありますか?
 
 齋藤 やはり『どぶ板』に徹して、人に会うしかない。机に向かっていても進まない。人と会って話をして、話の中から教訓なり知恵なり知識なり、様々な情報を汲み上げて整理する力をつけなければいけない。定量的な情報ばかりに寄り掛かって、決算書で安心してしまうような従来型の営業姿勢では難しい。与太話をしながらでも『この社長は一体何を考えているのだろう』、『どういう志向を持っているのだろう』、『自分の企業の製品に対してどういう理解をしているのだろう』、『お客にどういう価値を届けようとしているのだろう』など、様々なことを汲み上げて整理するフレームワークを頭の中に作っておかなければいけない。単に、聞くだけでは、『あの社長、いいよ』という感覚的な話にしかなりません。
 
 断片的な情報を繋ぎ合わせながら、SWOT分析やマーケティングの4Pというようなフレームワークに落とし込み、きちんと整理をしていけるかどうか。そうすることで初めて個人的に得た経験値を組織の組織値として昇華することが可能になってくるのだと思います。
 
 ――1月に誕生した道南うみ街信用金庫の藤谷直久理事長は、合併挨拶で『地域のホームドクターを目指す』という表現で地域社会に貢献することを謳っています。まさに言い得ていますね。
 
 齋藤 カルテに書き込むのは、体温や血圧だけではなく、どこがどのくらい痛いなど量的に表せないようなことも含めてきちんと書き込んでいくことが大切です。
 
 ――ところで北海道の信金の預金量は増えていますが、全国的に見れば預金減少が始まっている地域もあります。預金のトレンドは如何ですか。
 
 齋藤 信金中金の予測を見ても、預金は伸び続けて急激な変化はないと見られています。しかしある程度、団塊の世代が少なくなっていった時、預金の移動は頻繁に起こる可能性が出てきます。その時に、(預金を)集められる信金と集められない信金が出てくるでしょう。預金の移動は、ご承知のように相続が大きな原因。郡部にある地域金融機関の大口預金者の子息は、その多くが札幌や首都圏など都市部にいます。相続を受けた際に都市部の金融機関に移すことになり、地域金融機関から一度に預金が抜けてしまう可能性があります。相続では五月雨式に預金が減っていくのではなく、一度に多くの預金が移動していく怖さがあるのではないでしょうか。
 
 低金利が進む中で、定期預金には貯蓄手段としての魅力が少なくなって、データを見ても流動性預金が預金の半分以上を占めています。未だかつてなかったような状況で、流動性ゆえに預金は非常に動きやすくなっています。

 ――以前、先生が言われていたことに、『預金は春先の雪のように減っていく』というのがありました。春先の雪というのは、次の日になったら一気に減ります。つまり減り方が急激だと。私には、その言葉が非常に印象深かったですね。まさにそういうことが10年、15年経てば現実になるようなイメージですか。
 
 齋藤 そういう状況になる可能性はあります。『急激な預金減少はない』と金融機関の方たちは言いますが、やはり郡部の地域金融機関では減ることは確かでしょう。今は、預貸率(預金のうち貸出しに回している比率)が平均すると50%を切るくらいですから、極端な話、預金が半分に減っても貸出先を支えるだけの預金量は維持できるということが計算上は成り立ちます。しかし、その時には収益がゼロということです。
 
 今でも預貸の利ザヤによる収益は、ほとんどゼロに近い状況です。余剰資金があるから余資運用ができ、プラスアルファが生み出されています。マイナス金利の状況を考えれば、余資運用に回す資金量を多くしなければいけない。預貸率の低さはよく問題視される部分ではありますが、マイナス金利下では余資運用がそれ自体収益を生んでいます。今や“余資”ではなく“主資”になっているわけです。預金量の低下でそこに回せるお金が減っていけば、地域金融機関にとってみればまさに死活問題になります。

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