日本振興銀行が破綻し、預金保険制度が発足した1971年以来初のペイオフ発動になったが、金融関係者にはさざ波程度の波紋しか広がらなかった。と、いうのも振興銀は一般の銀行と異なり、預金の種類が運用目的の定期預金だけで、当座預金や普通預金といった決済性預金を扱っていないため、ペイオフの影響は限定的という判断が金融庁にあったためだ。
道内でも、「殆ど影響はない」(北洋銀横内龍三頭取)
しかし、金融庁が初のペイオフ発動に踏み切った意味は大きい。振興銀の影響は限定的でも、金融庁がペイオフを発動したこと、つまり伝家の宝刀を抜く姿勢を見せたことは決して限定的ではなく2弾、3弾もあり得るからだ。
金融庁や各地の財務局が行う金融機関に対する金融検査は、ペイオフに踏み切るかどうかの判断材料になるが、この金融検査の結果は決して外部に公表されることはない。預金者や融資取引先は、金融機関のディスクローズ誌などで健全な金融機関かどうかを判断するしかない。しかし、金融機関がディスクローズする財務状況は、100%信用できるものではない。
つまり、金融機関の実際の財務状況は当局と当該金融機関だけにしかわからないということだ。
今回の振興銀に対するペイオフ発動のキーワードになったのは『債務超過』と『影響が限定的』ということ。債務超過であっても影響が広範囲に広がれば、ペイオフ発動の可能性は少ないと逆説的には言える。
『影響は限定的』というキーワードは、協同組織金融機関である信用金庫、信用組合にぴたりと当てはまる。そこにもう一つのキーワード、『債務超過』が加われば第二、第三のペイオフが発動されるということだ。
前述したように、この『債務超過』というのが、客観的に預金者や融資取引先には分からないから厄介だ。引き当て不足がどうかは、当局の匙加減で決まってしまうからだ。
今春、信金、信組の全国組織である信金中央金庫や全信組連から優先出資証券の引き受けという形で資本支援を受けた信金、信組がある。道内にも伊達、函館の2信金と釧路信組がそれぞれ支援を受けている。資本支援=債務超過ではないが、これも当局と当該金融機関のみが実態を知る立場にある。
振興銀へのペイオフ発動は当局の金融姿勢が変化したことを示すメルクマールとなるのかどうか、とりわけ協同組織金融機関は対岸の火事とは言っておられないだろう。