「イオンモール旭川駅前」の光と影 道北経済へのインパクト③

流通

IMG_3939 3月27日にグランドオープンした「イオンモール旭川駅前」は、道北に新しい風を吹き込むことになった。ファッションや飲食などイオンモール(本社・千葉市)の持つテナントリーシングの蓄積とイオン北海道(同・札幌市白石区)の食品と美と健康の新機軸が投影されたフロアが展開されているからだ。大都市圏と違う地方中核都市での出店モデルをこのイオンモール旭川駅前で構築することができるのか――オープン当日に行われた記者会見からヒントを探ろう。(写真は、イオンモール旭川駅前)

 会見はイオンモール旭川駅前の4階にあるイオンホールで行われ、地元旭川や札幌、中央から記者ら約70人が詰めかけた。以下、当日の記者会見を再現する。
 
 NHK記者 イオンモール初の駅直結店舗だが、今後の出店は都市型にシフトするということか。
 
 イオンモール吉田昭夫社長 都市型にシフトしている訳ではない。従来通り郊外型のRSC(リージョナルショッピングセンター)も進めていく。ただ、都心回帰という世の中の流れもあるのでマーケットごとで判断して出店を決める。意図的に都市部を狙って出店していくことはない。 
 都市部での展開は、従来の郊外展開と違う中身にしなければならない。客層も違うからだ。イオンモール岡山は、駅に近いSCで郊外に比べ低年齢層、若いキャリアが多く来店する。そうした客層にかなりの情報量を提供しなければならない。従来、我々が主要顧客としていたニューファミリーとは違い情報量の多い客層だからだ。先を越されてしまうと我々の存在価値がなくなる。我々から様々な発信をしなければならない。館内でのデジタルサイネージ(電子看板)を多くして情報発信拠点としてテレビ局も誘致したのもそのひとつだ。
 イオンモール旭川駅前は、ソフトオープン期間中もバスで来られる客がとても多かった。そういった方々に向けて館内でのイベント情報や旭川市内での情報を提供する目的で壁面にサイネージを取り付けた。モールの初期のころは郊外のみが出店対象だったが、都市部も郊外も同じ目線で見てマーケットとして評価して出店していくことになる。
 
IMG_3916(4階の飲食ゾーン)
  
 日経ビジネス記者 従来のモールはイオン系の専門店などが入るケースが多かったが、このモールはイオン系列外の店舗比率が高いのか。
 
 吉田社長 この店の賃貸面積は3万㎡を切る。我々の通常タイプの半分だ。その中でお客の満足度を高める基軸で店舗を構成した。イオングループの映画館が入り、1階の大部分はイオン北海道が専門化した店舗で構成しているので、館全体でのグループ比率が低いわけではない。ただ、駅前に来る人たちに狭い面積の中でバリエーションを付けるため地元のお店とナショナルチェーンをうまく組み合わせたのは事実。 
 今年、私が社長になって経営ビジョンを少し見直した。従来、イオンモールは郊外に出店してマチができていくように、マチづくりの一翼を担ってきたが、今年からは、『暮らしづくり』を考えて行おうと。『ライフデザインデベロッパー』の役割を果たしてくことにした。地域に住む人たちの年齢構成も変わってくるので、それに合わせて様々な機能を付加していく方向だ。かなりサービス機能を入れて行かなければならないかも知れない。行政とタイアップした機能や病院、介護など今のマーケットを考えるとそういう機能も必要になってくる。
 
IMG_3918(記者会見に臨むイオンモール吉田昭夫社長=右から2人目とイオン北海道の星野三郎社長=右から3人目)
 
 道新記者 地元商店街との連携についてどう考えているか。
 
 吉田社長 既に平和通買物公園の商店街とスタンプラリーを始めて連携を図っている。9月には駅と周辺で秋の味覚を楽しむ“食べマルシェ”も行われるので連動したい。冬は氷の彫刻関係も連動して実施したい。旭川WAONカードも発行しており、0・1ポイントを地元に還元する。
 
 道新記者 今後の道内展開について。
 
 吉田社長 旭川にはイオン旭川西SCがあるが、来店手段を見ると明らかに使い分けがなされている。郊外型のRSCはニューファミリーが土日にゆっくり楽しめる要素を持っており、駅前は平日と土日のバランスがそんなに離れないだろう。実際、ソフトオープン期間も日中は年配の方々、夕方は学生が増えて駅前ならではの客層になっているようだ。
 
 イオン北海道星野社長 イオン北海道のGMS(総合スーパー)としては、ホームファッションとファッションがない初めてのフォーマットによる出店だ。名寄店以来7年ぶりの出店となるが、酒類専門店のイオンリカーやH&BC(ヘルス&ビューティケア)を含めてかなり手応えを感じている。従来は、食品で週2~3回の来店客がGMSの優良顧客だったが、この店は来店動機が高いため毎日来られる客を飽きさせない仕掛けが必要。今後、他の地域での出店チャンスもあると見ている。
 
IMG_3873(酒類のイオンリカーの売場)
  
 日経新聞記者 イオンモール岡山のオープンから3ヵ月で見えてきた課題は何か。  
 
 吉田社長 岡山では飲食店舗がもっとあっても良いのかなと思っている。郊外型と違ってアルコールが良く出て飲食単価も上がっている。我々としては飲食のバリエーションをもう少し増やしていくことを考えていかなければいけない。また、客層が明確に郊外と違うことも分かったので、郊外型よりもモールの鮮度が必要。イベントも含めて変わったことが絶えず起こっているオペレーションをしていかなければならない。旭川も予想以上に公共交通機関での来店が多くデイリーニーズが高い。どれだけ集客できるかは1ヵ月くらいで見えてくるだろう。
 
 以上が、会見での主なやりとりだが、同じ駅前と言っても岡山駅は1日乗降客が約12万人、旭川は1万5000人ほどで10分の1以下。大都市圏と違い閉鎖された地方都市商圏の中でどういうSCモデルを創りあげて行くのか、イオンにとっても未知への挑戦と言うことができそう。地元関係者の中には、イオンモール旭川駅前の“大丸化”を懸念する声もある。JR札幌駅前にある大丸が地域の中で1人勝ちしている状況を指してのことだ。
 
 イオンモール旭川駅前のSC全体の売上高は、約50~70億円の範囲と予想される。それだけのパイが増える時代ではないだけに、平和通買物公園の商店街や西武旭川店、フィール旭川(旧丸井今井旭川店)などにどれほどの影響がでてくるのか。一般的には売上げが2割以上減少すれば撤退も視野に入ってくる。個店同士の競争とともに面としてどう集客を図っていくのか、文字通り競争と協調をどう創りあげて行くか、その実験場としても注目されることになりそうだ。

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