連載[北のミュージアム散歩]

 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第88回は、滝川市の「滝川市美術自然史館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第88回 滝川市美術自然史館
-古代の息づかいと美の遺産-


正面写真

 滝川駅から20分ほど歩くと滝川市美術自然史館に到着する。一階にあるタイムトンネルと呼ばれる通路を行く。狭いトンネルの壁には、地球の誕生と生命の歴史が記されたパネルが掲示されている。そのまま展示室へ入ると、タキカワカイギュウが待ち構えている。カモノハシに似たくちばしを向けて泳ぐような姿だ。これはタキカワカイギュウの生体を復元した模型で、なかなか迫力がある。


タキカワカイギュウの復元模型

 並んで全身の骨格標本も展示されていて、見比べると他の恐竜との異なりに気付ける。この化石は1980年に空知川の河床で発見されたもので、第一発見者は地元の水石愛好者であった。趣味で川の畔を探索中に偶然見つけたという。化石にしては珍しく、骨格がほぼ揃った状態で浅瀬に沈んでいた。500万年前(滝川がまだ海)に生息していた体長8mの海牛である。海牛は海で暮らす草食動物としては、唯一の哺乳類でもあり、希有な存在といえる。その頃の寒冷な環境に適応し、海草を食していた。そうした生態の研究や特徴の解析によると、新種の海牛と位置づけられ、タキカワカイギュウと名付けられた。北海道天然記念物に指定されている。


館内光景

 発掘当時の状況の写真と調査・復元に至るまでの経過を示す資料もある。うっすらと光を灯す館内は、円を描くように広がっており、多様な古代生物が所狭しと立ち並ぶ。なかでも最も大型な存在は、ティラノサウルスだ。全長15m、体高6mもある骨格標本が凄みをきかせる。いわずと知れた凶暴な恐竜で、巨大な顎に鋭い歯、暴君竜とも呼ばれる肉食性の代表格である。近くに、カンガルーのような姿のカンプトサウルスや恐ろしいワニと異名を持つフォボスクスの標本、さらにプロトケラトプスの卵とアパトサウルスの足跡の化石なども観られる。


プロトケラトプブスの卵

 上部を見上げると、40mに及ぶ『古生物大壁画』が展示されている。恐竜と多彩な動植物が大自然に息づく様を表現した色彩豊かな壁画で、古代の地球において隆盛を極めたであろう活動ぶりを彷彿とさせる。異様というか独特な古代空間に思える。
 二階は、滝川出身の日本画家・岩橋英遠(1903-1999)の作品を紹介している。この日は『帰郷』や『雪戦会の日』などが観られた。画家の幼き頃の思い出を込めた作品であった。


館内の展示光景

 英遠は屯田兵の二世として江部乙で育つ。子供の頃に家の襖に落書きをし、祖父に見つかり叱られたが、思いもよらず褒められもした。厳格な祖父だったが、感心した様子であった。そうした出来事をきっかけに少年は絵心を深めていき、やがて日本画家として大成する。江部乙村の美しさや北海道の四季を幻想的に表現した作品が多い。他に幾つかの画廊があり、個人や団体での芸術作品を展示できる場(使用料・利用方法は事前確認)や時折催される特別展の展示室もある。

 三階のこども科学館は、別館であるが美術自然史館と繋がっている。雲の動き、稲妻、オーロラなどの現象を科学的な視点でわかりやすく伝えている。人間・宇宙・地球・科学の不思議をテーマにした子供が楽しめるイベントも企画している。
 なかでも国内唯一と言われる動く地球儀が見物である。プレートテクトニクスと呼ばれていて、直径3メートルもある地球儀のプレートが動きだすと、大西洋やヒマラヤ山脈が徐々に形つくられていく。子供たちが集まると、古代の地学現象を目の当たりに驚きを隠せないようだ。

 当初は北海道ゆかりの芸術家の作品を展示する美術館として建設する話が進んでいたが、その頃すでに発掘されていた、タキカワカイギュウの存在もあって昭和61年に美術作品と自然史を兼ねて、個性あふれるミュージアムとして開館した。

利用案内
所 在 地:滝川市新町2-5-30 TEL:0215-23-8786
移動手段:JR滝川駅から徒歩20 バス乗場から乗車・〔滝川奈井江線〕奈井江高校行・開発局前停留所下車、新町2丁目交差点を左折し5分
開館時間:10:00~17:00(入館16:30)
休 館 日:月曜日(祝日は開館)冬期休館(12月1日~2月末日)
入 館 料:一般650 高校生380 中学生250 小学生120

付近の見どころ
「菜の花畑(江部乙地区)」
 5月中旬~6月上旬に見頃を迎える菜の花が点在している。広大な大地が黄色に満ちていて、圧倒される。案内用の期間限定タクシーもある。

文・写真:雪乃 林太郎

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