札幌市長を目指す現職上田文雄氏(62、民主・社民・国民新・市民ネット推薦)と新人本間奈々氏(41、元総務省自治大学校研究部長、自民推薦)の公開討論会(17日午後6時半より道新ホールにて開催)は、2人の個性を浮き上がらせた。現職の強みを活かし小局=細部に明快な上田氏、新人としてフレームワーク=大局が明快な本間氏。2人は対立というよりも補完というイメージを聴衆に植え付けたようだ。(写真は意見を述べ合う両候補)


北海道の中における札幌の役割とは何か。経済面から2人の主張は、対立というよりも相互補完にあるように感じられた。
2期8年の市長経験から上田氏は北海道における札幌市の役割をこう述べる。
「札幌の経済は、自己完結型と言われているが、札幌は道内各地のショーウィンドーの役割を果たさなければならない。狸小路の道産食材の直売マート『HUG』やオータムフェストはその一環。札幌は、生産者と消費者をつなぐ役割がある」と明快に答え、国際総合戦略特区を札幌など4市と道経済連合会で申請しており機能性食品や創薬などバイオ、ITを絡めて食の複合産業化を推進していく方向が札幌の役割と強調した。
本間氏は、この部分では上田氏よりも具体像に乏しかった。札幌が、北海道各地のショーウィンドー的な役割を果たすことには同調していたが、「食の付加価値はそんなに高くない。それに札幌市民の平均所得が低いことが気になる。チープな就労からもう少し付加価値の高い就労につながるように、知識集約産業や生活関連・ケア産業を育成していくのが重要なポイント」と指摘した。公共投資で経済の下支えをしつつ、こうした新しい地場産業の厚みを使っていくことが札幌経済の役目と述べる。
市民の声をくみ上げる市政に対しては、本間氏は議会・議員の役割を強調したのに対して、上田氏は直接市民の声を聞くことが大切と語り、議会・議員の位置づけに温度差が現れていた。
本間氏は、「基本は議会。議員は地域の中から選ばれており市民の声を代弁している。行政と議員がいかに議論を戦わせるかが原理原則。市役所は市民に身近な情報をいかに発信していくかが大事」とすると、上田氏は「私は市民感覚を大事にするために1年間で1区に1回ずつ年間10回、6年間で60回はそれぞれ160人くらいの市民の方々と話をした。市民の声を聞いて政策を作っていくのが行政の役割。出前講座もゴミ問題や循環資源の問題などのべ13万人の市民に実施している。議員も市民の意見を代弁しているが、提案機関であるのに8年間で3つしか議員提案の条例がないのが実態」として、市民との直接対話こそ民意に基づいた政策立案のポイントになると述べた。
本間氏はこれに対して、「どういう人の意見を聞くのか。声の大きい人だけの意見を聞くことになりかねない」と議会軽視ともとれる上田氏の発言に疑問を投げかけていた。
入札価格の漏洩など職員の不祥事が続くことに対して2人の考えはどうか。
本間氏は「綱紀粛正も必要だが、常日頃のコミュニケーション、多くの職員がどういう状態で仕事をしているのか、職員間のコミュニケーションが大切。リーダーも職員と話ができる環境を率先して作らないといけない」と対話不足を主張。
上田氏は、「尽くすべきを尽くしてもなお起こる。一事が万事ではないが、道ども国でも必ず出てくる問題で痛苦の思い。8年間市長をしてきてこのままで良いとは思わないが限界がある」と歯切れの悪い答え方だった。
2人の候補が互いに市長選に向けた意見を戦わしたのは今回が初めて。2人が向き合って語り合う姿には、新聞やテレビが伝えきれないナマの表情や感情が響いてきた。
公開討論会は90分間行われたが、大局観と小局観で2人の個性が滲み出ていた。結論を言えば、「小局明快、大局曖昧」な上田氏、「小局曖昧、大局明快」な本間氏だった。
札幌市長選は27日に告示され、4月10日に投開票が実施される。前回、自民が立てた市長候補清治真人氏は上田氏との票差が約17万票だったが、本間氏がどれほど得票数を伸ばすのか注目される。

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