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 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第75回は、新十津川町の「新十津川町開拓記念館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第75回 新十津川町開拓記念館
-南の母村から北の新村へ-


記念館の正面

 JR滝川駅からバスで10分ほど行くと、石狩川とピンネシリ山脈に挟まれた広大な平野、新十津川町に着く。役場にほど近い中央公園の中に、「新十津川町開拓記念館」が建っている。国旗と新十津川町旗が翻る、レンガ造り二階建ての堂々とした建物だ。この辺り一帯はトック原野と呼ばれ、明治23(1890)年6月に奈良県十津川郷士たちが丸木舟で石狩川を渡り、最初に入植したところだ。
 広い外階段を上り二階の展示室へ入ると、7つのコーナに分かれて古代から現在までの開拓の歴史、さらに町の将来の展望について語られている。

 はじめに、原始時代の縄文文化人が残した生活用具などの標本が並んでいる。次に、母村である奈良県の十津川村と、団体移住をした経過についての説明が詳しく始まる。
 周囲を深い山々に囲まれて林業を主とする十津川村は、昔から朝廷との結びつきが強い土地柄であり、天皇から菊の御紋章付きの菱十字(菱形の中に十字の印)の十津川郷旗を賜っていた誇り高き村であった。明治維新の際には、この旗を掲げて戦いに参加して大きな功績をあげて、一村すべてが士族の称号を与えられた。これらの貴重な歴史的記念品の数々が展示されている。


館内の展示光景

 明治22(1889)年8月、この村を未曾有の大暴風雨が襲いかかる。村の四分の一が崩壊し、家も土地も家族をもすべてを失った人々は、開拓地として注目を浴びていた北海道への集団移住を決め、600戸2489人の人々が北へと旅立った。
 奈良県と北海道とでは、気候も文化も生活も全く違う。遠く南の故郷を離れ極寒の原始林を切り拓くのは容易なことではなく、移住民相互の協力と一致団結することが必要不可欠であった。人々は「移民誓約書」を起草して励まし合い助け合いながら、艱難辛苦を乗り越えて開拓を成功させることを誓い合った。彼らの不屈の精神が誓約書の中に示されている。
 明治24(1891)年には、収穫物もまだ少なく生きてゆくのがやっとの中で、早くも小学校をつくり子弟の教育に当たる。母村の奈良県十津川の文武両道の伝統や文化を引継ぎ、郷土の進んだ学問を身に着けさせて、将来を担う子供たちに希望を繋いだ。

 移住直後は畑作が中心であり、やっと少し収穫ができ始めた明治30(1987)年、夜盗虫の大発生が起こり農作物は全滅の被害を受けた。この時、わずかに作っていた水稲だけは夜盗虫の被害を受けなかった。その経験から水田を作るようになり、新十津川村は米どころへと変化していく。
 しかし、冷害や石狩川の氾濫などの災害は続いた。度重なる試練に耐えきれなくなり、十津川移民たちの中には他の町へと移って行く者も出てしまう。そこに移住してきたのが富山県人であった。新十津川の郷土芸能として知られる「獅子神楽」は富山県出身者たちが伝えたものである。獅子舞の大きな頭(かしら)が飾られている。

 現在、新十津川町は豊かな水田や畑が広がっている。コンピュータ情報技術を用いた「スマート農業」に取り組み、人手を用いない新しい農業技術を目指している。
 母村との交流は続いており、昭和55(1980)年の新十津川町開基90周年記念には、奈良県から村長をはじめ住民200名が駆け付けた。かつての大暴風雨の山津波で十津川渓谷の底深くに沈んでいたヒノキの大木が掘り出されて、その巨大な根塊がお祝いに贈られ、展示されている。
 記念館の中央部は吹き抜けになっていて、透明なアクリル板でできた大きな菱十字のテーマディスプレーが飾られている。南の母村十津川と、多数の苦難を乗り越えて豊かに開拓された北の新村新十津川。二つの村の強い絆と誇りを示す菱十字が、キラキラと輝いている。


母村と新村の象徴、菱十字の大きなアクリル板

利用案内
住所:〒073-1103 新十津川町字中央1番地1
電話:0125-76-2622
開館日時:火、水、木、土、日曜日10:00-16:00 金曜日10:00-13:00
休 館 日:月曜日、祝日の翌日、年末年始、11月―4月 休館
入 場 料:大人200円、小中学生100円

付近の見どころ
 広い敷地を持つ「ふるさと公園」には、夜間照明が備えられた野球場、テニスコート、パークゴルフ場があり、更に、サッカーコート、スポーツセンター、温水プールなども完備されている。文化伝習館では藍や玉葱、茜の草木を使い新十津川の染色文化や織物技術の体験もできる。

文・写真:山崎 由紀子

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