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 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第69回は、むかわ町の「鈴木章記念ギャラリー」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第69回 鈴木章記念ギャラリー
-むかわ町からノーベル賞受賞を祝う-


鈴木章記念ギャラリー正面

 JR日高本線終点のむかわ駅から徒歩約10分のところに、鈴木章北海道大学名誉教授の記念館がある。鈴木名誉教授は鵡川村(現在のむかわ町)出身で、2010年(平成22年)、ノーベル化学賞を受賞した。出身者としての偉業を記念して、むかわ町は受賞の翌年に特別予算を組み、むかわ温泉「四季の館」内に「鈴木章記念ギャラリー」を開設した。

 館内は77.8平方メートルの広さで、「鵡川の流れのように、世界へ」という言葉からの展示ではじまる。中央にある鈴木名誉教授の胸像は、むかわ町民の寄付により、彫刻家の齊藤尤鶴(ゆうかく)氏が制作した。胸像のすぐ隣には、等身大のパネルがある。その後ろにはテレビ画面があり、鈴木名誉教授の業績を約3分間の映像で紹介。ギャラリーの壁面は、「むかわでの出会い」、「化学との出会い」、「幸運との出会い」、「世界との出会い」の4部構成で、鈴木名誉教授の半生と「鈴木・宮浦カップリング」の説明などが、パネルや写真、ノーベル賞のメダルのレプリカと共に紹介している。本物のメダルは、防犯上の理由から北大にある。


館内の展示1:右下のミニチュアは、鵡川小学校の模型

 鈴木名誉教授のノーベル賞受賞理由は、「有機合成におけるパラジウム触媒を利用したクロスカップリング反応(異なる種類の有機物を結合させる反応)の確立」である。受賞の半世紀前の米国留学中に、有機ホウ素化合物「ハイドロボレーション」の優れた特性が、産業に応用できることを早くから注目。帰国後に北大で研究を重ね、パラジウム触媒を用いて、有機ハロゲン化合物と有機ホウ素化合物を結び付けるカップリングの合成に成功。これを自身と共同研究者の宮浦憲夫助手の名前をとって、「鈴木・宮浦カップリング」と命名した。この反応は、医薬品、農薬、液晶の製造、有機導電性材料の開発などに応用されることになった。この結果、根岸英一パデュー大学特別教授とリチャード・ヘック(米国人)デラウエア大学名誉教授との共同受賞へと繋がった。


館内の展示2:右下は鈴木・宮浦カップリングを利用して作られた薬品のサンプル

 鈴木名誉教授は1930年(昭和5年)9月12日、6人兄弟の長男として誕生。鵡川国民学校初等科(現在のむかわ町立鵡川小学校)卒業後、苫小牧中学校(現在の苫小牧東高校)に入学。父の定輔さんの病死で、進学を断念して家業の柳葉魚販売店を継ぐつもりでいたが、高校の先生が家族を説得して、1949年(昭和24年)に北大理類へ進学できた。
 入学直後に休学届を提出して、鵡川村立生田中学校(現在のむかわ町立生田中学校)の助教諭として1年間の勤務を経て、復学した。復学後、化学者への道を決意させる一冊の本に出会う。その本は、米国の有機化学者フィザー夫妻が書いた「テキストブック・オブ・オーガニック・ケミストリー」であり、鈴木名誉教授が学生時代に使用したこの本はギャラリー内に展示されている。

 北大理学部化学科を卒業後、大学院理学研究科修士課程に進学。世界で初めてパイロシン(防虫菊や蚊取り線香の煙の成分)の固化結晶化に成功した。博士課程に進み、静内町出身の陽子さんと結婚。博士課程を修了後、北大の助手になり、理学博士号を取得した。新設の工学部合成化学工学科の助教授を経て、教授に就任。1994年(平成6年)3月、北大を定年退官。その後、岡山理科大学、倉敷芸術科学大学で教鞭をとった後、2002年(平成16年)に教職を離れた。日本学士院賞受賞と北海道新聞文化賞受賞。

 2010年(平成22年)10月、長年に亘って北海道でやってきた研究が世界的に評価され、ノーベル賞受賞となった。同年、文化功労者・文化勲章受章、北海道特別功労賞、むかわ町特別功労賞受賞。一方、むかわ町は同町出身の子供たちを金銭的に支援する「鈴木章記念基金」を設けた。翌年、日本学士院会員に。2020年(令和2年)に北大は、鈴木名誉教授の卒寿を記念して、化学反応の発見に関する研究者を称える「鈴木章賞」を創設した。
 2021年(令和3年)6月6日、同時受賞した根岸特別教授が亡くなった。訃報を受けた鈴木名誉教授は北海道新聞の取材に、「(自分にとって)他の研究者とは異なる特別な存在だった」とコメントした。


館内の展示3:色紙の下は愛用の万年筆

利用案内
住  所:勇払郡むかわ町美幸3丁目3-1
電話番号:0145-42-4171
開館時間:24時間観覧可能
入 館 料:無料
休 館 日:なし
アクセス:JR日高本線鵡川駅より徒歩10分。車の利用だと、むかわ町道の駅を利用。

付近の見どころ:
むかわ温泉「四季の湯」
道の駅「むかわ」に併設されている日帰り温泉施設。泉質は薄い黄褐色のナトリウム塩化物強塩の天然温泉。露天風呂、気泡風呂、打たせ湯、高温サウナがある。年中無休。

文・写真 大渕 基樹

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