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 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第68回は、苫小牧市の「苫小牧ポートミュージアム」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第68回 苫小牧ポートミュージアム
-情景漂う港の博物館-


苫小牧フェリーターミナル外観・3階に苫小牧ポートミュージアムがある

 太平洋に面した苫小牧港は中核国際港湾に指定されている。西港のフェリーターミナルの3階には『苫小牧ポートミュージアム』がある。主に港の歴史や役割と航海の魅力を紹介している。通路の壁に5枚の大きな海図が掲示されている。船内の操縦室で実用されたもので、航海に不可欠な多様な情報を記している。
 室内は扉もなくさほど広くはないが、海や港を連想させる色彩に彩られている。立入ると映像放送が目に付く。築港に至る経緯と市の観光名所を放映している。
 上空から撮影された港湾地域を眺めると、千歳空港と隣接し、高速道路や鉄道網が伸びていて、この港は道内の経済活動を担っていることが読み取れる。物流輸送においても重要な拠点地である。

 飛躍を続ける苫小牧港。その建設の歴史をさかのぼると、勇払原野(苫小牧から太平洋に至る一帯)の海岸への挑戦であったといえる。広漠とした海岸は見渡す限りの砂浜であった。明治の頃、地引き網を駆使したイワシ漁が賑わいをみせていた。大正になると漁の衰退もあり、沖合漁業の為の港づくりへの声が上がる。地元民の関心が高まるなか、当時の事業技術では困難を極めた。ある2人の漁師は私財を投じて建設を試みるも実現に至らなかった。大きな要因は、激しい波や漂砂による影響であった。「砂浜に大規模な港は築くことはできない」と否定される時代のなか、自然環境の厳しさに阻まれても、『勇払に港を』強い意志は引き継がれ、やがて、北海道開発庁と運輸省港湾局の合同会議により、昭和26年8月、建設に着工する。国費400万円、市税600万円の費用と港湾計画の下、漂砂移動の調査・研究に防波堤の拡張が進められた。
 ところが、中谷宇吉郎(北大教授)は苫小牧の港建設を例にとり、北海道開発の無駄な事業と批判をした。産業界にも同調する動きもみられた。推進派への世論の風当たりも批判にさらされた。


フェリー模型展示

 そうしたなか、かつてない手法として、国内初となる堀込港湾工事(陸地を堀込み埋め立てる)が実地される。漂砂対策も施され、やがて海浜に大規模な堀込港湾が完成した。
 館内の中ほどに、西港ターミナルを就航する3隻の模型が展示されている。船首から船尾の形状、船内の様子まで細部にまで精巧につくられている。
 本州を結ぶフェリー航路は東京航路(昭和47年)に始まり、現在は八戸(青森)、仙台(宮城)、大洗(茨城)、名古屋(愛知)の各港へ3社11隻が運航している。このうち苫小牧・仙台・名古屋を結ぶ片道約1300キロメートルの航路は日本一の長距離とされる。観光の進展にも貢献している。
 奥の壁側に大型のタッチパネルが設置されており、施設での作業風景や管理上のシステムなどを詳しく伝えている。


館内のパネル展示

 港と船の魅力を広く伝えることを目的として、小学生を対象にコンシエルジュサービスを提供している。船内や施設の見学、講師が学校を訪問する出前講座など子供も理解できるサービスである。コンシエルとは仏語で接待係を意味する。
 館内の近くに、外景色を展望できる場所【送迎デッキ】がある。ほどよい高さから、北日本最大と称される港湾施設を俯瞰してみる。整然として浮かぶ船舶の姿と広大な海の光景に見入り、かつては砂浜一帯の海浜が変貌を遂げたことは先人の偉業であることに、改めて感じた。平成30年に苫小牧港大規模堀込港湾施設として、『土木学会選奨土木遺産』に認定された。


送迎デッキから見た風景

利用案内
所 在 地:苫小牧市入船町1丁目2番34号 苫小牧西港フェリーターミナル3階
開催時間:8:00~20:00(変更の場合あり) 無休 無料
交通機関:道南バス利用 苫小牧駅からフェリーターミナル17分

付近の見どころ:
ウトナイ湖
国指定鳥獣保護区に定められた湖。野鳥の楽園と呼ばれ、270種を超える鳥類が確認されている。散歩や観察をしながら、豊かな自然を楽しめる。

文・写真 雪乃 林太郎

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