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 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第48回は、旭川市の「川村カ子(ネ)トアイヌ記念館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第48回 川村カ子(ネ)トアイヌ記念館
~先住民族が自ら設立した歴史文化の館~

 JR札幌駅から旭川に向かう途上、一つ手前の駅、『近文』に、個性的な博物館がある。アイヌ民族自らが設立した貴重な私設資料館である。大正5(1916)年、川村カ子(ネ)トの父7代目イタキシロマによって、アイヌ民族の文化の保護及び伝承を目的に設立された。運営管理は近文アイヌコタンの名家である川村家が歴代行っており、2代目カ子トを経て現在は三代目の兼一が館長である。今年(2020年)で104年に至る。明治期から和名を川村と名乗った。集落の長として、開拓使及び国に対して交渉を行なうなど、人々の生活権を守り、維持向上に尽力した家柄である。


川村カ子トアイヌ記念館入口
独特の建物外観に見入る来館者

 大正5年の早期設立の理由は、明治期にコタンに隣接して第七師団が設立された。コタンには、師団の軍人及びその家族等が毎日頻繁に見学に訪れ、特に小学校を訪問する者が最も多く、7代目イタキシロマは子供達の学習が中断する事を憂う中、ついに決断して、提案したのが発端である。
 「アイヌの宝物及び珍しい物は、我が家に多数揃っている。全てお見せしましょう。今後、見学は学校ではなく、私の家へ是非お越し頂きたい」
 彼は忽ち、自宅の敷地内に建物を建て、展示物を豊富に並べ、見学者をそこに招いた。

 設立当初は、アイヌ記念館、または同資料館等の名称で呼ばれていたが、戦後の昭和26年頃に二代目カ子トが、正式に『川村カ子トアイヌ記念館』のネーミングで登録し、今日の観光ブームに至る基礎を築いた。彼は戦前戦中には優れた測量技術者として名高い。
 館内は展示コーナーと多目的スペースの大広間からなる。また、同敷地内にある建物、チセ(アイヌ民族固有の住居)は、古来の構造を忠実に再現して設置された。展示物は500余点にも及び、アイヌ民族の文化を伝える。その内容は、大別5種類である。一つ目は、武具及び猟具であり、マキリ、タシロ等ナイフやナタのような形体の物が最も多い。二つ目は、祭事に係るもので、代表的なトゥキ、イクパスイ等。カムイや先祖に祈りを捧げる儀式に使う神聖なものである。そのデザインは幾何学的な文様、生き物の姿を描いたものなど様々に、独特の彫刻が施されている。
 他の展示物は、食器、日常品、衣類及び装飾、装具等に分類することができる。壁には、アイヌの人々の暮らしを伝える古写真も展示されており、DVDモニターでは、アイヌ民族全般について解りやすい解説を伴い、細心の配慮がなされている。


イクパスイ(儀式の際、神に酒を捧げる用具)

 多目的スペースの大広間では、時折、各種イベントが催されてきている。昨年10月には、動物絵本作家のあべ弘士原画展が行われ、中でも『クマと少年』の物語に係る少年とはアイヌの少年であり、大盛況を得た。今年もこの広間を利用して、夏期頃にイベントを計画中である。


多目的スペースの大広間
アイヌ文化と時代背景を語る川村兼一館長

 館内には全4隻の丸木舟がある。その殆どは二代目カ子トが苦心して近郊から収集した。だが、1隻は、兼一館長が友人と共に自ら手彫りで製作したものである。
 「我々は歴代、技術を大切に伝承する。我らの時代にもこうしてきちんと伝わっている為、ほんの数カ月で完成できたのだ。それを皆さんに知って頂く為に、この現代、わざわざ私が製作した」
 けっして過去ではなく、今尚息づいている事、それを伝える事は、この記念館のコンセプト『アイヌ民族の文化の保護及び伝承』だと熱く語る兼一館長は、国の重要無形文化財『アイヌ舞踊』の保護伝承活動の指導役を受け持ち、旭川市の代表的行事、神居古潭の『こたんまつり(毎年9月23日前後)』の際には、実行委員会に招かれて、この地に赴きカムイへ祈りを込めてイナウを捧げる大役を担う。

 館内では、希望者に対して各種体験プログラム(有料・事前予約)を実施している。アイヌ舞踊、アイヌ刺繍体験の他、ムックリの製作及び演奏などである。また不定期ながら、随時、彫刻及び木の枝を使った道具製作などを披露しており、作業風景を見学できる機会も設けられている。

利用案内
住    所:旭川市北門町11丁目(TEL.0166-51-2461)
開  館  日:年中無休:9:00~17:00
入  館  料:大人_500円、中高生_400円、小学生_300円
交通アクセス:JR旭川駅→1条8丁目停留場より
       旭川電気軌道バス『24番新橋線』乗車、アイヌ記念館前下車。すぐ目前。

付近の見どころ:
古美術入屋(伊藤古美術店:tel.0166-53-8826)
旭川市 緑町24丁目_博物館から車で約5分(徒歩25分)
近文アイヌ作家による彫刻を展示。
間見谷喜文、松井梅太郎、砂澤ビッキ等の彫刻、砂澤チニタ絵画など。一部公開不可の秘蔵品有り。

文・写真 松村ゆかり

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