• Follow Me

地域経済の専門サイトとしてグローカルな情報を毎日提供しています。

北海道リアルエコノミー

MENU

 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第38回は、札幌市の「札幌市時計台」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第38回 札幌市時計台 市民の心の故郷


札幌時計台の外観
昭和と平成時代の超高層建造物に挟まれ、ひっそりと存在している。

 札幌市時計台は、同じく都心部にある道庁旧本庁舎(赤レンガ庁舎)と伴に、開拓時代の札幌を象徴する歴史的建造物である。1970年(昭和45年)、重要文化財に指定された。二階建て(時計塔部分は五階建て)で、一階に時計台や札幌農学校の紹介、そして二階は当時の演武場を再現し、コンサートなどを開く貸しホールとして利用されている。
 時計台は、1878年(明治11年)に武芸練習所として作られ、「旧札幌農学校演武場」が正式名称だ。初代教頭のクラーク博士が構想し、二代目教頭のホイラーが計画を立て、開拓使工業局の安達喜幸が半年間で建てた。

 アメリカ合衆国東部のコロニアル建築様式をベースに、構造的に独特の建て方である。1881年(明治14年)、ニューヨークにあるハワード社が製作した時計が設置され、校内の天文台観測や、時間を札幌標準時刻で学生達に知らせた。
 1903年(明治36年)、農学校が現在の北海道大学構内に移転すると、不要となった演武場は、住民の要望より市民の時計台として蘇った。3年後、北2条通りの敷設と同時に、南西方向に約100m移動し、現在に至る。

 市内の喧騒から逃れ正面玄関に入った。内部の静寂さに思わず意表をつかれる。
 真っ先に、明治14年の札幌の街並みのパノラマ写真と、北講堂、演武場と寄宿舎からなる「札幌農学校」の精巧なジオラマが目に入り、この時代にタイムスリップする。
 まず、農学校のパネルに向かう。クラーク博士と交わした調印書。そして、米国人教師の講義内容を書き留めたノートや、洋風化した学生食事メニューの他に、教師着任の晩餐会に出された鹿や白鳥そして鱈を使った献立の模型は、興味深い。
 学生生活も説明していた。一室3人の寄宿舎に寝泊り、禁酒禁煙。午前中は授業、午は実習、日没までに入浴して夕食後4時間の復習、午後10時消灯の教育課程以外にも、キリスト教による全人的教育も求めた。社会から自立を促すクラークの理念を開拓使は許容した。卒業生の内村鑑三は、ここは「真理の揺籃地」と、述懐している。


札幌農学校のジオラマ模型
左から、北講堂 演武場 寄宿舎を表現している。

 時計台のパネルでは、目に付いたのは安達喜幸の素顔だ。お雇い外国人に学び、明治7年、47才で開拓使首席建築家となる。開拓初期の重要な洋風建造物である開拓使本庁舎や豊平館などを建造し、現在でもその評価は高い。
 最後に、市民と時計台のコーナーに回った。明治から昭和初期の住民の証言によると、約2.5kmも離れた場所まで、鐘の響きが聞こえたという。
 戦前まで北海道教育会らが使用し、戦後の1949年(昭和24年)に大改修され、17年間、市立図書館として利用された。当時の利用者の八割は、受験を控えた中高生で、開館一時間前から、200m以上の長い列を作ったそうだ。椅子を取り合うため、我先にと裏口から、または、窓ガラスを割って入る話には、受験戦争の厳しさと、当時の貧弱な図書館の実情が伝わってくる。

 時計保守に関して、初めは教育会の職員がしていたが、昭和に入ると時計も止まっていた。1933年(昭和8年)、北側にあった時計店の井上清(36才)が見かねて、分解掃除を含む保守に携わり、再び鐘の音が聞けるようになった。
 親子二代で、ボランティアで74年間、時計台の職員に引き継ぐまで、機械を守り続けたのだ。市民の一人として感謝の気持ちで一杯になる。
 二階に上がると、時計装置の紹介コーナーがある。説明では、国内最古の塔時計で、さらにワイヤーの一部以外は同じ部品で、“重り”として豊平川から持ってきた小石も、現在まで137年間も使用され続けていることに感嘆する。


時計装置の模型
左側が時計、右側は石が入っている緑色の木箱である。

 札幌市時計台は、多くの外国人を含む観光客を惹きつけているが、広大な草原にあるという先入観の違いより、「日本三大がっかり観光地」と云われている。時計台の悩みは、来館者の88%がその観光客で、地元住民には敷居が高いらしい。
 市民憲章は、「われわれは、時計台の鐘が鳴る札幌市民です」から始まる。市民の時計台なのだ。そのため、毎月16日は、札幌市民は無料ディとしている。一度は、内部に入ってみよう。展示物は、歴史以外にも市民性も含めた札幌の原点が濃縮され、その奥深さにきっと驚くはずだ。

利用案内
住  所:札幌市中央区北1条西2丁目
開館時間:午前8時30分から午後5時10分(入館は、午後5時まで)
休 館 日:年始(1月1日から1月3日)
入 館 料:大人200円(高校生以下無料)

付近の見どころ:
さっぽろテレビ塔
1957年(昭和32年)に建造された、中央区大通西1丁目の大通公園内にある高さ147mの電波塔。戦後の札幌を代表とする建造物である。地上90mの展望台から望む札幌の眺望は、よく知られている。

文・写真 河原崎 暢

<< 第37回  第39回>>