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 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第32回は、西興部村の「にしおこっぺ村 森の美術館 木夢」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第32回 にしおこっぺ村 森の美術館 木夢

~日本のゼペットじいさんの遺志を継ぐ~


にしおこっぺ村 森の美術館 木夢の外観

 オホーツクの山間にある人口1,100人あまりの西興部村。この小さな村に、いつも子供たちの歓声が響いている場所がある。「にしおこっぺ村 森の美術館 木夢(こむ)」。村営の美術館として、1997年にオープンした。

 建物に入ると、高さ8メートルのドーム型の「木のゆうえんち」のスケールに圧倒される。立体迷路を通って10メートルものらせん状の滑り台を一気に下る「アドベンチャーヒルズ」、ハチの巣のような箱をくぐる「ハッチハウス」、世界で最も遅い足こぎ式の「F1」、同じく足こぎ式の鉄道も動いている。子どもたちは走り回り、親やおじいさん、おばあさんも皆、笑顔だ。
 これらの遊具は全て木製、しかも、ほとんどが手づくりだ。他にも、木のままごと部屋、オルゴール、木馬など、1,240平方メートルの館内には、木のおもちゃがずらりと並んでいる。木工教室も開かれ、まさに「見て、触れて、遊んで、作って」が体験できる。木を通して、自然の尊さを学ぶ北海道発の「木育」は、この木夢が発祥の地でもある。


木のゆうえんち

 木夢は一人の男性の熱い想いから生まれた。故・伊藤英二さん。2012年、80歳で亡くなった木夢の初代館長だ。展示されている作品の多くが、伊藤さんの手による。もともと中学校の教師で、養護学級を受け持った時、授業に木のおもちゃ作りを取り入れ、子どもたちに大きな自信を持たせた。また、ヨーロッパへの研修で、木のおもちゃが生活に根付いていることにも、心を揺さぶられた。
 ただ、制作に力を入れるようになったのは、1980年、まだ高校生だった息子を病気で失ったことがきっかけだった。つらさを忘れるため、作業部屋にこもり続けたという。木のおもちゃとは伊藤さんにとって、自分の「子ども」でもある。

 木のおもちゃ作家として独立していた伊藤さんと、基幹産業の林業で町おこしをしたい西興部村が結びつくのは当然のことであった。こうして、総事業費4億5,000万円をかけた木夢は、実現したのだった。オープンするや、大きな話題となり、1年間で村の予想の約4倍の4万4,000人あまりが訪れた。木夢は西興部村最大の観光施設となり、伊藤さんはピノキオを作ったゼペットじいさんにあやかって「日本のゼペットじいさん」となった。

 伊藤さんが手がけた作品で、一番の人気を誇っているのが、「木の砂場」だ。プールのような木の枠に、直径3センチほどの木の玉を砂のように敷きつめている。その数、実に14万個。子どもたちは潜ったり、全身にかけたりと、大喜びだ。実際に、筆者も木の砂場にあおむけで寝てみた。全身に心地よい刺激が流れ、木の香りもあいまって、いつまでもこのままでいたくなる。
伊藤さんは作品作りにあたって、「Strong」「Simple」「Safety」の「3S」をモットーとしてきた。木の砂場は、ナラやカバなど耐久性の強い道産の広葉樹を使い、構造は単純明快、子どもの誤飲を防ぐ大きさを徹底し、まさに「3S」を実践する木のおもちゃである。この木の砂場は、伊藤さんから相談を受けた北見市の木製品会社が商品化に成功し、全国各地の児童施設や美術館などに広まっている。


木の砂場

 バブル崩壊後にオープンしながらも、好調を維持してきた木夢だったが、長引く不況や観光ルートから外れていることもあって、次第に入場者が減っていく。一時期は年間8,000人台にまで落ちたが、ここ数年は年間1万2,000人台を維持している。その理由のひとつとして、伊藤さんの教え子の成長があげられる。多くの教え子が育って、木夢の木工指導員となった者もいる。その後進たちが新たな作品を作り出している。今年の新作・ハンモックは入口付近に設置され、子どもたちが次々と体を揺らしていた。
 日本のゼペットじいさん・伊藤英二さんの蒔いた種は、木夢という場で、「樹木」として立派に成長し、その遺志を継いでいる。


故・伊藤英二さん(木夢提供)

利用案内
住  所:北海道紋別郡西興部村字西興部276番地
電話番号:0158-87-2600
入 館 料:大人500円 小学4年生~中学生300円 3才~小学3年生100円
開館期間:4月~10月10:00~17:00 11月~3月10:00~16:30
休 館 日:毎週火曜日

付近の見どころ:
森林公園「宮の森」
村の中心部に隣接し、西興部村の鎮守の森として村民に親しまれている。エゾシカ・エゾモモンガ・エゾフクロウなど、多くの動物が生息している。樹齢150~300年と推定されるカツラの巨木は「宮の森」のシンボル。公園には散策路があり、展望台からは、西興部の街並みが一望できる。

文・写真 坂野 秀久

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