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 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第15回は、札幌市中央区の「北の映像ミュ―ジアム」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第15回 「北の映像ミュ―ジアム」―風景が語る北海道の歴史―

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北の映像ミュージアム

 札幌市中央区にある「さっぽろ芸術文化の館」(旧厚生年金会館)の一階にある、100平方メートル(約30坪)の部屋が、北海道の映像資料の博物館「北の映像ミュージアム」である。そこに、北海道の映像文化がぎっしりと詰まっている。

 ミュージアムのガラス張りの入り口から、室内が見渡せる。中央に置かれている映写機が目に飛び込む。道内の映画館で使われていた「富士セントラル映写機F-6」と「富士セントラル映写機F-120」、重量200キログラムで、このミュージアムのシンボル的存在である。1950(昭和25)年から60年代にかけて、35ミリフイルムを回して使っていた。
 当時の映画館では一巻のフイルムを15分から20分おきに取り換えて上映せねばならず、二台の映写機を交互に廻して使った。デジタル式になった今、かつての苦労が偲ばれる。

  北海道は東京に次ぐ、映画のロケ地だそうだ。壁に貼られた「ロケ地マップ」は、1932(昭和7)年に作られた『熊の出る開墾地』から2016(平成28)年『世界から猫が消えたなら』まで、北海道をロケ地にした映像が456本もあることを示している。北海道を4つのブロックに分けると、道央圏を舞台にした作品が208本、道東125、道南80、道北43、になる。都市別の舞台は、札幌が89本、函館73、小樽41、網走29、釧路23と続く。どこで、どんな作品が撮影されたのかが、ひと目で分かる。

 北海道の大自然は、映画人を惹きつけるという。雄大な自然は演じる人の感情や心理を、生き生きと表現する。映像の背景になっている風景も、作品のもう一つの主役である。
 北海道は開拓の中で、農業、漁業、鉱業、林業、酪農、など時々の産業と共に歩んできた。その労働のすべては、女も男と共に働かなければならなかった。原野を切り開き、ニシン漁で、石炭坑で、牧場で、男と同じ仕事をする、北の女の姿も風景のひとつ。

 開懇の苦労から、繁栄した一時代を経て、さびれゆく過疎の町や廃止される赤字のJR路線など、時代ごとに変化してゆく風景は、北海道が辿ってきた歴史である。風土の中で作られた映像は、北海道の歴史の記録だ。

 このミュージアム作りに、情熱をかけた人物がいた。北海道新聞記者であり美術と映画の評論家でもあった故竹岡和田男は、北海道の映像資料を整理し散逸を防ぎ、北海道の映像文化を残してゆかなければいけないと、立ち上がった。しかし、2000(平成11)年に急逝し、その志を受け継いだ人々が、残された資料や書籍のコレクションをもとに10年の準備期間を経て、2011(平成23)年、「北の映像ミュージアム」の開館にこぎつけた。

 札幌市が提供してくれた一部屋は、もと厚生年金会館のブライダルサロンであった。部屋の壁にはめ込まれていたガラスケースを展示棚として利用し、写真やポスターなどコレクションの数々が飾られている。「キネマ旬報」は1919(大正8)年の創刊号から2015(平成27)年まで、揃っている。黒澤明監督からの直筆の手紙もある。視聴コーナーでは、北海道ロケの映画やドキュメンタリー約50本を、研究目的で鑑賞することができる
 小檜山博館長以下20数名のメンバーは、全員がボランティアで活動している。交代で来館者の説明にあたり、半年ごとに変わる企画展や、映写会などに取り組んでいる。

 黒澤明監督の映画『白痴』を見た。昭和20年代の札幌が舞台で、いまはもう取り壊されてしまった、かつてのエキゾチックな札幌の街並みに再会した。懐かしさで胸がいっぱいになった。
 第3土曜の午後、シネマ塾には映画好きが集う。若い頃に見た名作や、伝説の俳優に出会うことができる。札幌の楽しみが増えた。

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館内風景

利用案内
所 在 地:札幌市中央区北1条西12丁目 札幌芸術文化の館1階
交通機関:地下鉄東西線西11丁目駅下車徒歩5分
     中央バス・JR北海道バスで「北1条西12丁目」下車、徒歩1分
電  話:011-522―7670
開館時間:午前10時~午後6時
休 館 日:月曜(祝日の場合は翌日) 年末年始
入 館 料:無料

付近の見どころ
 札幌の文化ゾーンであるこの一帯には、札幌軟石作りの札幌市資料館(札幌控訴院)(大通西13)、道立近代美術館(北1西17)、三岸好太郎美術館(北2西15)、道知事公館(旧三井家別邸)の英国風貴賓館と庭園彫刻(北1西16)など、芸術の香り高き建物が連なっている。

文・写真 山崎 由紀子

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