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 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第14回は、釧路市の「港文館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第14回 「港文館」 ―啄木の華やかな新聞記者時代を彩る―

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港文館の外観

 道東の釧路市駅前の北大通りを南方向へ進み、町のシンボル幣舞橋を渡ると、川沿いに石川啄木に因んだ「港文館」が建っている。
 啄木が釧路に滞在したのはわずか2ヵ月半だが、豊富な漁獲量に活気づく町で新聞記者として活躍し、花街通いを覚えて若い芸妓と恋愛関係になるなど、この釧路時代は啄木文学に大きな影響を与えたとも言われている。

 文学を志し、岩手尋常中学校を退学して上京した啄木だが、生活の困窮により、明治40年(1907)、友人を頼って北海道に渡った。函館市を始め、札幌市、小樽市で代用教員や新聞記者の職を転々とし、明治41年、創業したばかりの釧路新聞社の主筆に迎えられた。啄木は到着した日、寂寥感のなかで「最果ての地に降り立ち—」と詠んだ。

 入社した啄木は、新しくコラムを設けるなど工夫し、紙面づくりに力を注いだ。こうして新聞は人気を集め、発行部数は競争紙を圧倒する。家族へ仕送りをする一方で、取材をきっかけに足を踏み入れた花街に借金を重ねては通い、華やかな日々を送った。
 完成したばかりの真新しい煉瓦建築の社屋に出勤した啄木は、友人に宛てて「小さいけれど気持ちよき建築へ移転仕候」と手紙に書き、この町で実に凝縮された輝ける時を過ごしたのだ。

 この建物は昭和17年、他新聞社と合併して北海道新聞釧路支社となり、新聞社移転の際、保存を望む声も起きたが昭和36年(1961)に解体された。後年、現釧路新聞社が地元の歴史的建造物である旧釧路新聞社社屋の復元を市に提案、市民も観光客も集える休憩所という形で、平成5年(1993)に完成したのが「港文館」である。

 啄木像を右手に見て、カラカラと入口の木の引き戸を開けると、中は1階のフロア全体が見渡せるほどの広さだ。事務室があったこの階は、談話室と喫茶室となり、和やかな雰囲気が満ちている。中央の階段を上ると、2階はかつて編集室だった資料展示室である。右側部分の壁に当時の釧路港と市街地を望むように撮影した写真をパノラマ状に掲示、傍には、新聞社前で、お洒落に帽子をかぶった啄木が同僚とともに収まる集合写真が貼られている。その奥には、啄木が馴染みとなった花街の「しゃも寅」で、実際に使用された火鉢や酒器が置かれ、宴席の雰囲気を醸している。

 階段を挟んで反対側には、啄木と交流のあった町の人々や、妻のほか関わりの深い女性の解説をパネルに仕上げ、恋人として特に知られる芸妓小奴は、啄木が町を去ったその後のことも写真付きで紹介している。また、ガラスケース内に啄木自筆の年賀状などが展示されている。

 私信の横には、歌集『一握の砂』初版本が陳列されている。密度の濃い日常を送りながらも、中央文学界での成功の夢を忘れられず、啄木は結局76日間で釧路を後にし、再び上京する。しかし打ち込んだ小説や評論などの評価は得られなかった。ほぼ収入がない極貧生活のなか、啄木の素直な気持ちが溢れるように歌となった。明治43年(1910)に551首を収めた初の歌集『一握の砂』が発表されると、多くの人の心を捉えた。

 結核を患い、啄木は27年の生涯を閉じるが、感情豊かに詠われた作品は今も人々を魅了する。歌集には、北海道を回顧したもの、まだ若い啄木の青春を彩った釧路時代を詠ったものが多数含まれており、釧路には今なお啄木ファンや研究家が多数存在している。
 海に近い川岸に佇むレトロな赤煉瓦館は、釧路の霧にけぶり、潮の香りとカモメの鳴き声に包まれて、啄木がここで生きた時代に思いを馳せることができる。

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港文館の館内

利用案内
所 在 地:北海道釧路市大町2丁目1-12 TEL:0154―42―5584
開館時間:5月~10月 10時から18時
     11月~4月 10時から17時
休 館 日:年末年始
入 館 料:無料
駐 車 場:4台(フリースペースにも駐車可)
交通機関:釧路駅より車で約3分・徒歩で約20分

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幣舞橋近く、川を挟み、「港文館」の対岸に建つ。館内には、土産物店等多数が入る。川を臨む一階の飲食店では、屋台風に席を設け、外気に触れつつ新鮮な魚介を浜焼きとして堪能できる。

文・写真 望月 洋那

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