札幌弁護士会は3日、現憲法が公布された日に合わせて「司法修習生の給費制復活を求める市民集会」を札幌市内の国際ホールで開いた。司法試験に合格した司法修習生は1年間の修習義務があるが、この期間は昨年から給費制が廃止され無給。集会では、フリーキャスターの佐藤のりゆき氏がコーディネーター役になって現役弁護士や医師の丸山淳士氏(五輪橋産婦人科小児科病院名誉理事長)ら4人によるパネルディスカッションが行われ、無給の問題点や給費制の復活を求める理由などを話し合った。集会には約200人が参加した。(写真左はビギナーズ・ネットによる意見表明、写真右は市民集会でのパネルディスカッション)

 
  
 司法修習生には2年前まで月19万円ほどの給費が国から支払われていた。給費が支給されるようになったのは昭和24年から。現憲法の三権分立の中で司法の重要性に鑑み、収入のない修習期間は国が生活を保証、質の高い司法関係者を社会に送り出そうという目的からだった。
 
 しかし、国は平成14年に法曹人口の拡大に舵を切り、法科大学院を整備するとともに司法試験合格者を増やし弁護士5万人体制を目標に掲げた。これによって、司法修習生も増えるため当時でも年間100億円かかっていた給費制を廃止、昨年の65期修習生から無給になった。
 
 無給になった代わりに月額23万円まで貸与する制度があるが、その制度を使えば司法修習を終えて裁判官や検察官、弁護士になったと同時に約300万円の借金を背負って巣立つことになる。しかし、実際には借金はこの程度では収まらないという。「大学や法科大学院で奨学金や親戚から借金をしている修習生もいて、多い人では1300万円もの借金を背負っている」(磯田健人弁護士)実態もある。
 
 司法修習期間は専念義務があるためアルバイトは一切禁止。2ヵ月に一度は修習地が変わるため、引っ越し代や交通費、住居費、食費も必要になり裕福な環境にある修習生しか無給では過ごせない。昨年の65期司法修習生のうち77%は貸与を受けた統計もある。
 
 佐藤氏は「医師と弁護士には金持ちの人が多いから、1000万円の借金でもすぐ返せるでしょう」と素朴な疑問を投げかけたが、それがそうでもない。弁護士人口は10年間で1万7000人から2万8000人に増えたが、事件の数は減少傾向で民事訴訟はこの10年ほどで305万件から240万件へ2割の減少だという。
 
 昨年、確定申告をした弁護士2万8000人のうちで年収70万円以下の弁護士は4800人もいる。2割弱がワーキングプアー弁護士でその数は増え続けているというから、借金を背負って司法界に出ても返せずに、それこそ弁護士が多重債務者になりかねない現状があるようだ。
 
 市民感情から言えば、裁判官や検察官は国家公務員として国民生活の役に立っているから給費制でも良いが、弁護士は民間人で言わば自由業なのに国民の税金で賄われる給費を支給することはストンと落ちない面もある。年間2000人の修習生のうち裁判官や検察官になるのはそれぞれ100人程度で残りは弁護士の道を選んでいる。裁判官や検察官には採用枠があって弁護士に進まざるを得ないケースもあるが、それならば司法試験を難関にして修習生の数を減らせば良いという議論に行き着き、結局は国の司法に対する考え方の矛盾の出口として給費制廃止で帳尻を合わせている構図も浮かび上がってくる。
 
 パネリストの高橋智美弁護士は、「弁護士、裁判官、検察官が一体となってこそ司法は成り立つ。弁護士は社会生活上の医師であり給費制を復活させて国が責任を持って育てていくべき」と訴えた。佐藤氏は最後に、「日ごろの弁護士の活動こそがこうした運動を後押しすることになる」と締めくくった。佐藤氏が言わんとしたのは、市民生活の中で弁護士の役割を説明する地道な努力と係り付け医のように敷居の低さが求められるということ。佐藤氏コーディネートもあって笑いや素朴な疑問を交えながら給費制の本質を分かりやすく参加者に訴えるパネルディスカッションになった。
 
 市民集会では、現役の司法修習生や弁護士ら2200人で構成する給費制復活を求める全国組織「ビギナーズ・ネット」も揃いの青いTシャツを着て意見表明。代表の萱野唯氏は貸与制の理不尽さと借金返済の不安を抱えながら修習をすることの問題点を強くアピールした。


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