ノンフィクション作家の佐野眞一氏が11日、札幌で『津波と原発』をテーマに講演した。佐野氏は、東日本大震災後に現地入りし、ルポ『津波と原発』を書いたが、講演では福島第一原発の土地は堤康次郎が所有していたことや原発を日本に導入したのは正力松太郎だったこと、東電OL殺人事件で殺された東電OLの当時の上司が勝俣恒久会長だったことなど、メディアでは報じられない原発事故の裏面を語った。東日本大震災市民支援ネットワーク・札幌(愛称むすびば)と泊原発の廃炉をめざす会が札幌市民ホールで開いた「3・11報告会・講演会」で講演したもの。(写真は、講演する佐野眞一氏)
 
 佐野氏は震災後に三陸一体を歩いたほか、4月22日には立ち入り禁止区域である福島原発20㌔圏内に入った。そこで感じたのは、東京にある日本の中枢が精神の瓦礫で折り重なっていること、そして日本という国は何の責任も持たないということだった。「この国の中核がメルトダウンしている現実を見せられている。国家は国民が安心して暮らせるようにする組織なのに、不安を撒き散らしているだけ。こんな国家は国家じゃない」と参加者たちに訴えた。
 
 佐野氏は著書を引用しながら、福島原発のある一帯の土地は戦時中陸軍飛行場として使われ、その後は塩田となり西武グループ創始者で政治家だった堤康次郎が300万円で買って東電に3億円で売ったこと、原発を日本に導入した張本人は読売新聞社主を務めた実業家であり政治家だった正力松太郎だったことを示し、「しかし、正力を一方的に非難できない。我々は半世紀に亘って原発の恩恵を享受し原発社会を容認してきたからだ」と語った。
そのうえで、「一番いけないのは“事なかれ主義“と“なし崩し”。原発がなかったら高度成長はなかったとか、原発の長期停止で雇用に悪影響があるとか、自然エネルギーで賄えるはずがないなど様々な声が聞こえるが、一番大事なことは客観的な根拠を示すことだ。原発社会を容認してきたのは我々だから、自分たちで原発を続けるのか止めるのか、責任を持って担うことしかない」と迫った。
 
 3・11のような重大なことが起こると必ず連鎖が起きるとして、司法の現場でも無謬神話が崩壊し始めていること、ソ連ではチェルノブイリ以降にソ連が崩壊したことになぞらえて、日本の国という形もなくなるかもしれないことにも言及した。
 
 さらに、自らの著書で東電OL殺人事件は冤罪事件であることを訴えてきたが、原発事故が起きた同じ年にこの事件は冤罪の可能性があることが発覚、「因縁めいている」と佐野氏は語り掛け、「彼女は、当時経営企画室にいたが、その時の上司が現在の東電勝俣会長だった。彼女が昼と夜の顔を持つことは経営企画室では有名で勤務中もよく昼寝をしていた。本来なら勝俣氏は注意するかクビにするべきなのに、ニヤニヤしていただけだった。東電とはそういう会社だったと原発事故後に思い出した。だから、今でも経営陣が謝罪する姿を見ても腹の中では違うことを考えているのではないかと疑ってしまう」と述べた。
 
 最後に佐野氏はこう結んだ――「一人ひとりが昨年のあの日と1年後の今を反芻すること。一人ひとりが考えることで、この国に少しは光が見えてくるかも知れない」


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