食の雑誌『専門料理』編集長や『料理天国』創刊編集長を務め、現在は食のオピニオンリーダーのための雑誌『料理通信』編集顧問の齋藤壽(ひさし)氏。40年に亘って食のジャーナリストとして活躍してきた齋藤氏が6日、札幌市白石区の札幌コンベンションセンターで開催されたコープさっぽろの取引先で組織される生協会の「新春学習会」でゲスト出演、食の可能性について講演した。IMG_1174(写真は、講演する齋藤氏)

 齋藤氏は、『食べログ』や『ぐるなび』など食のサイトについて、「私も見ることがあるが、食べた人たちのコメントは間違った情報で溢れている。どうしてそうなっているのか。いろんな料理人が、『これは低温調理だから美味しい』だとか、『真空パックにしているから美味しい』、『タンパク質は低温で調理しないとだめだよね』などと話した言葉が独り歩きしているから。食べた人も『低温調理で肉を料理しているから私には合わない』などと書いている。そういう間違った情報を見ると料理をきっちりと把握しないと世の中は誤った情報で溢れてしまう」と齋藤氏は警鐘を鳴らす。
 
 続けて、「料理の最大のテーマは、どうやったらタンパク質の旨味を逃がさずに美味しく調理できるか。その中から真空調理法が開発された。素材を真空パックにして低温で加熱することによって歩留まり100%でフォアグラのような素材を加熱することができるようになった」と紹介。
 
 この調理法は、フランスのハムやソーセージを作る業者がミシュラン三ツ星のフランス料理人に頼まれて生み出した方法。これによってタンパク質を低温で調理する技術が当たり前のようになったという。それによって生まれたのが、真空パックの機械とスチームコンベクションオーブンという機械。今はどの調理場にもこの2つの機械は業務用として当たり前のように置かれている。

 そこから調理の世界ではどんどん機械が開発されるようになったという。液体窒素を使ってマイナス190度Cで調理することにより、例えばオリーブオイルをこの液体窒素に入れて瞬時に固体にし、それを砕いて100度Cくらいまで戻すとサラサラのオリーブオイルができる。このオリーブオイルを振りかけると、口の中に入れた時にオリーブの香りが広がるようになる。

 齋藤氏は、「これらの機械が開発されたことによって、食の現場では調理科学的なアプローチによって美味しく作る競争になってきた。そういう時代だからこそ、みんなが同じ調理器具を使って同じやり方をして、果たしてお客が持続的に来て喜んでくれるだろうかという問題が僕は横たわっているのではないかと思っている」と語った。

 そのうえで、「調理科学的アプローチで新しい料理を知ることも大事だが、最終的にはその土地でなければ食べられないものをいかにして生み出すかだと思う。これまでも土地、土地に料理人が集まって『名物料理を新しく作りました』と言っているが、B級グルメ以外に残った試しがない。料理人には、素材をしっかりと勉強して料理に取り組む姿勢が必要だと思う」と訴えた。
 
 プロの料理人向け雑誌を編集発行してきたが、齋藤氏は自戒を込めてこう喝を入れた。「僕は、現在の料理人は褒め殺しにあっていると思う。もっと謙虚で本質的な料理を生み出すために勉強すべきだ。勉強とは、今、自分の足元にある食材のポテンシャルは何で、それをどういう形で料理にするとお客に来て良かったと思ってもらえるようになるのかを見つけ出すことだ。そのことが一番必要だと思う」

 齋藤氏は、2014年4月に上川郡美瑛町が町おこしの一環として開業した「オーベルジュ bi.ble(ビブレ)北瑛小麦の丘」をプロデュースしたほか、料理人養成機関「美瑛料理塾」も主宰している。


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