IMG_9354 胃がんの原因となるピロリ菌の研究や社会啓蒙活動で国際賞である『マーシャル・ウォレン賞』を日本人として初めて受賞した北大大学院医学研究科がん予防内科学講座の浅香正博特任教授(65)。浅香教授は「東京オリンピックの年がとても待ち遠しい」と言う。7年後のオリンピックイヤーに日本で胃がんで亡くなる人は半減する可能性が高いからだ。浅香教授の単独インタビューの続編を掲載する。(写真はインタビューに答える浅香正博教授。手にしているのは『マーシャル・ウォレン賞』のメダル。「メダルを入れるケースは日本に帰ってきて専門の業者に特別に作ってもらったんですよ」と笑う)
 
――今年2月から慢性胃炎のピロリ菌除菌にも保険が適用されるようになりましたね。
 
 浅香 2月21日から慢性胃炎のピロリ菌除菌が保険適用になった。胃潰瘍、十二指腸潰瘍に加え2010年には胃の悪性リンパ腫、早期がんの内視鏡治療、ITP(特発性血小板減少性紫斑病)という血液の難病中の難病のピロリ菌除菌も保険適用になっている。ITPは白血病以外の一番の難病。それがピロリ除菌したらきれいに治る例がある。この患者は全国に約3万人いるが殆ど除菌が終わったはずだ。
 
――ピロリ菌はそもそも何ですか。
 
 浅香 グラム陰性桿菌に属する細菌でヘリコバクター・ピロリ菌は人間しか生息しないが、ヘリコバクター属だけで50数種類ある。犬や猫にくっつく種類もある。何十万年前からこの細菌は生存していて、人類が生まれてからずっといるのではないかと言われている。一番古いのはコロンビアのミイラの便から発見された。6000年以上前のものだ。
 
――ピロリ菌が引き起こす様々な病気は除菌で減っていくということですか。
 
 浅香 若い人たちの感染者は少ないから若年者の胃がんは減少している。ピロリ菌感染胃炎という慢性胃炎を除菌して行けば(胃がんが)絶対減ると言っているのは、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の除菌が2000年に保険適用になったことで2つの病気が明らかに減っているからだ。2つの病気は6割近く減っている。胃潰瘍も十二指腸潰瘍も感染症だったわけだ。十二指腸潰瘍はこの10年で75%減った。日本人を何千年に亘って苦しめた病気が消えて行く。だからそれと同じように胃がんを消そうと思っている。
 結論は簡単で政府は対策など特に何にもしなくても2月に慢性胃炎への保険を通してくれただけでスイッチはオンになっている。北海道では除菌の症例が今年7月までの5ヵ月間で3倍になった。北海道の約40倍が全国の症例になるから年間数万人だった除菌が来年の2月になると全国で100万人を超えると思う。
 
 団塊世代は3000万人いるので毎年100万人ずつ除菌したら20~30年で胃がんは消える。1年間で200万人ずつなら10年くらいで一気に減る。慢性胃炎患者の半数が除菌したら胃がんの発生率が2万6000~3万人くらいに減るだろう。それが判定できるのが東京オリンピックの2020年、7年後だ。オリンピックとともにそれがものすごく楽しみだ。除菌してくれなかったら元も子もないが、除菌してくれたら確実に減っていく。2020年には胃がんで亡くなる人が半減するだろう。
 
――ところで、趣味や座右の銘を教えてください。
 
 浅香 趣味はテニス、ゴルフ、カメラ、旅行、読書、映画、何でも好き。特任教授になってからは3億年以上前にいた古生物の化石を集めることにも凝っている。何でも興味があって畑仕事もやる。天文にも興味があって皆既日食もマニアと言えるだろう。
 
――皆既日食を最初に見たのはいつころですか。
 
 浅香 札幌南高の時代に初めて遭遇した。網走地方で見えるというので、僕の出身地、美幌に帰って見ていたが皆既になる瞬間に雲が出てきて全く見えなかった。何の感激もなくて残念だったが、同じ時間に網走は晴れていてそこで見ていたのが毛利衛さん。毛利さんはその時にものすごく感激して宇宙飛行士の道を選び、何も感激しなかった私は医者になったという訳。感激していたらひょっとしたら宇宙飛行士になったかも知れない。
 その後はなかなか見ることができなかったがずっと見たいと思っていて、北大病院長の時にトカラ列島で皆既日食があったがやはり天候が悪くて見ることができなかった。その次の年にタヒチ島で40年越しで初めて見ることができた。昨年はオーストラリアのケアンズで見たが、感激のひと言しか出てこない。2050年ころの皆既日食まで全部見たいと予定を立てている。
 
――信念というような指針にしているものはありますか。
 
 浅香 これというものはないが、最終講義の時にはスティーブ・ジョブスの『ステー・ハングリー ステー・フーリッシュ』という言葉を贈った。『チャレンジ』とい言葉も好きだ。寺山修二の『振り向くな振り向くな、後ろには夢がない』という詩も好きだ。絶えず前を見ることが大切で、後ろ見たら我々のような医学の世界は終わってしまいますから。
 (この稿終わり)


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