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 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第72回は、網走市の「網走市立郷土博物館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第72回 網走市立郷土博物館
-北辺の大地に灯る文化の灯台-


「館の正面」(写真提供:網走市立郷土博物館)

 オホーツク海にほど近い、緑あふれる網走市桂ケ岡公園のゆるやかな坂道を上がって行くと、瀟洒な西洋建築の建物が姿をあらわす。
 昭和11年、北海道で最初の博物館として建設された網走市立郷土博物館である。
 設計は旧帝国ホテルの設計で知られるフランク・ロイド・ライトに師事した、建築家の田上義也(たのうえよしや)である。洋風建築の建物中央に設けられた印象的な赤いドームの塔屋には「北の文化の灯台」の意味が込められいる。地元の名工宍戸栄左衛門が建設工事を請け負い、棟梁として職人の指示にあたったが、モダンな建物は曲線が多く現場の職人は苦心したという。
 郷土博物館の開館にあたっては、モヨロ貝塚を発見した、故米村喜男衛名誉館長(明治25年~昭和56年)が長年にわたって収集した考古・民族資料約3,000点が提供されている。

 白を基調とした館内に足を踏み入れると、オホーツク海に棲息する海の迫力ある大型哺乳類が目に飛び込んでくる。北の森を代表するヒグマなど、網走湖をはじめとする湖や高山など生息地ごとの鳥類、魚類と多様な生態系に満ちあふれていて、網走の豊かな自然を感じることができる。一部の木製展示ケースは開館当時のもので、在りし日の姿を偲ばせる。
 幾何学模様のステンドグラスに彩られた階段を上がると、古代から現代にいたる歴史が紹介され、北方文化の歴史を見ることができる。
 網走の風土・歴史・文化・産業、地域の姿を伝え、子供から大人まで楽しめる空間となっている。


「オホーツク海の自然」(写真提供:網走市立郷土博物館)

 今から約1300年前、北の大陸からやってきたモヨロ人の暮らしは「オホーツク文化」と呼ばれる独特なものであった。巧な航海術と海獣狩猟の技術を持った彼らは、クジラなどの海獣骨や石製の道具を使い、盛んな狩猟活動を行っていた。生活用具でもある土器は黒褐色でオホーツク式土器独特の刻文や細い紐状の貼付が見られ、モヨロ貝塚の出土遺物として展示されている。


「歴史(考古)展示室」(写真提供:網走市立郷土博物館)

 米村喜男衛は、青森県常盤村(現・藤崎町)生まれ。大正2年に網走の河口付近でモヨロ貝塚を発見する。理髪店を営みながら貝塚の研究に没頭し、増え続ける出土遺物は、理髪店の一室で資料として公開していた。「市街中心に、貴重な資料をおくのは、火災などの危険もあるのでは……」と、見学に来ていた住友鴻之舞鉱業所に勤める地質鉱物学者の助言を受け、博物館開設が動き出した。
 博物館建設費は、住友鴻之舞鉱業所をはじめとする、地元近隣の各所から資金援助を募った。半分は喜男衛が負担することで、博物館を作る話がまとまった。
 昭和11年、網走支庁長(北見国網走郡)は社団法人「北見教育会」という団体をつくり、地方教育の振興と文化の発展を図ろうと、「北見郷土館」の名で建設、開館した。実物を教材として勉強ができる、地域的総合博物館が誕生した。昭和23年に北見教育会解散に伴い、網走市に移管され「網走市立郷土博物館」と改称された。昭和36年には創設25周年を記念して新館が増築。令和元年には本館・新館ともに国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

 「博物館には、いつも子供達が遊びに来ていましたね」。気さくに対応している喜男衛が印象に残っていると、元館長の米村衛(よねむらまもる)さんは話す。博物館前の坂道を上がりきったところに小学校があり、夏休みともなれば、孫をつれて博物館を訪ずれる人々の姿があるという。

 「……人はそれぞれ郷土を持っています。(中略)より住みよい郷土を造ってほしいと思うのです。深く知ることは必ず愛情が生まれてくるものです。私の館は、実はそういうことを目的として建てられた館です。」

 「郷土愛について」と題する、米村喜男衛の遺稿の一文である。

 喜男衛の願いである「北の文化の灯台」は、今もなお、地域を照らし続けている。

利用案内
所 在 地:〒093-0041 網走市桂町1丁目1番3号
開園時間:午前9時から午後5時(11~4月は4時)
休 館 日:月曜日・祝日・年末年始
入 館 料:大人120円(高校生以上) 小人60円(小学生・中学生) 団体20名以上は2割引

付近の見どころ
網走神社
 網走地方の鎮守の氏神であり、本殿前参道には貝殻が敷き詰められているのが特色。また、映画「男はつらいよ」シリーズ「寅次郎わすれな草」のロケ地となっている。

文:鎌田 美枝

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