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 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第39回は、北見市の「ピアソン記念館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第39回 ~北見市民の精神文化の礎~ピアソン記念館


ピアソン記念館 外観

 北見市の繁華街から坂道を5分ほど歩いたところにスイスの山小屋のような洒落た2階建ての洋館がある。1914年(大正3年)に建てられたピアソン記念館だ。アメリカのキリスト教宣教師・ジョージとアイダのピアソン夫婦が1928年(昭和3年)までの15年間、暮らした住宅で、夫婦の功績を残そうと1971年(昭和45年)、資料館となった。設計したのは、東京お茶の水にある「山の上ホテル」など日本に西洋建築を広めたウイリアム・メレル・ヴォーリズである。北見市の指定文化財、それに北海道遺産にも認証されている。

 ピアソン夫婦は東京で結婚後、30年あまり北海道で暮らし、各地でキリスト教の伝道にあたった。監獄での伝道、アイヌ民族への伝道の他、札幌農学校の教壇に立ち、学生の指導にも力を入れた。坂本龍馬の甥で開拓に入った後、キリスト教の宣教師となった坂本直寛、「アイヌ神謡集」を著す前の知里幸恵、学生だった頃の小説家の有島武郎とも交流があった。北海道での最後の伝道の地に選んだのはアイヌ語で「地の果て」を意味する野付牛(のつけうし)・今の北見市であった。


ジョージ・ペック・ピアソン(左) アイダ・ゲップ・ピアソン(右) (NPO法人ピアソン会提供)

 館内には、当時の活動の様子がわかる写真や書類が数多く展示されている。アイダのオルガンも残っている。このオルガンは今でも演奏することができ、時折、コンサートも開かれている。
 ガラスケースの中には、ジョージが著した「略注旧新約聖書」がある。それまでの日本語の聖書はとても難解なものであった。ジョージはページの下の部分に、難しい文言についての注釈や解説を加えていった。30年近くかけて完成させた聖書は「ピアソン聖書」とも呼ばれ、その後、多くの信者に愛用されるようになった。

 写真展示の中には「婦人運動」を紹介するものもある。特にアイダが中心になって進めた「廃娼運動」は大きな成果を生んだ。当時の北見はハッカの生産・世界一を誇り、空前絶後の景気に沸いていた。富の集まるところに、欲望も集まる。遊郭の設置を求める動きが強くなる中、アイダは日本キリスト教婦人矯正会野付牛支部を作り、反対運動を展開した。賛同者が増えて、反対署名も集まり、結局、遊郭は設置されなかった。
 生活が苦しい野付牛中学校(現・北見北斗高校)の生徒のために私財を投げうって作った寮は「ピアソン寮」と呼ばれた。ピアソン夫婦は、急激な近代化に取り残された女性や子どもの立場に立って、希望を与え続けたのだった。

 ピアソン記念館は、北見市の所有物であるが、運営・管理は指定管理者のNPO法人ピアソン会が請け負っている。ピアソン会は、元々はピアソン夫婦を慕う人たちが1998年(平成10年)に作ったボランティア団体で、記念館の庭の清掃や植樹などにあたってきた。記念館の運営・管理は2004年(平成16年)から始まり、会のメンバーが必ず詰めている。来館者の案内はもちろん、ピアソン夫婦の研究も続けている。約50人の会員の情熱が記念館を支えている。


1階展示室 (かつての居間)

  ピアソン会事務局長の伊藤悟さんは、ピアソン夫婦は「人のために尽くす心を北見に置いていった」という。たとえば、ピアソン夫婦は、裸足で歩く子どもたちのために、道端に落ちているガラスの破片や釘を拾い集めていたという。その精神は、春に行われる「冬あか一掃運動」につながっているという。雪どけに合わせて、地区ごとに、市民自ら街の清掃活動を行うものだ。北見の街がきれいだと言われる所以の一つである。

  また、北見は1970年代、民衆史運動が始まった場所でもある。オホーツクの開拓・開発の裏に隠れていた囚人労働、タコ部屋労働、朝鮮人・中国人の強制連行などの歴史を北見市民自らが掘り起こし、その動きは全道・全国へと広がった。そのバックボーンには、平和・人権を守りたいというピアソン夫婦の願いが地域に根付いていたからではないだろうか。
 アメリカに帰国したピアソン夫婦は太平洋戦争が始まる前に亡くなった。ピアソン記念館は、建てられてから1世紀が過ぎた今でも小高い丘から北見市民を優しく見守っている。

利用案内
住  所:北見市幸町7丁目4番28号
電話番号:0157-23-2546
開館時間:午前9時30分~午後4時30分
入 館 料:無料
休 館 日:毎週月曜日・国民の祝日の翌日・年末年始(12月30日~1月6日)

付近の見どころ:
北見ハッカ記念館
戦前、世界のハッカ市場の70パーセントを占めるまでに至った北見のハッカの歴史がわかる施設。ハッカ産業の発展に大きく貢献したのが昭和9年に開業したホクレン北見薄荷工場。工場は昭和58年に解体されたが、研究所が北見市に寄贈され、昭和61年北見ハッカ記念館として生まれ変わった。
■住所 北見市南仲町1丁目7番地28号
■電話番号 0157-23-6200
■開館時間 午前9時30分~午後4時30分

文・写真 坂野 秀久

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