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 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第35回は、網走市の「博物館 網走監獄」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第35回 博物館 網走監獄~自然体で紹介する負の歴史~


博物館 網走監獄 正面

 今、話題の漫画・アニメ「ゴールデンカムイ」の舞台の一つになっているせいか、「聖地巡礼」の若者の姿が目立つ。JR網走駅から、車で約7分。天都山のふもとにあるのが「博物館 網走監獄」だ。
 網走といえば、知らぬ者はない。それはかつての監獄、その後の刑務所があまりにも有名だからだ。「博物館 網走監獄」は、網走刑務所の全面改築を機に、市民の有志が声を上げ、明治から使われてきた建物を10年がかりで移築・復元して、1983年(昭和58)にオープンした。

 館内は意外に遊び心に富んでいる。食堂で食事をしたり、作業をしたりする受刑者たちのマネキン人形はあまりにもリアルで、出くわすと、思わずのけぞってしまう。何度も脱獄に成功した受刑者に至っては、「ヒーロー」のように扱われている。
 レストランの人気メニューは刑務所内で実際に食べられている「監獄食」だ。筆者もホッケの定食を食べてみた。よく出汁のとれた味噌汁に、米7麦3のごはん、ふきの煮物に山芋と、とてもヘルシーで美味しい。ネットでの口コミでは、道内の博物館の中でもトップクラスの人気を誇る。

 25の建物群はどれも貴重なものばかりだ。このうち8棟が国の重要文化財、6棟が登録有形文化財に指定されている。重要文化財の一つ、「旧網走監獄 舎房及び中央見張所」は5つの棟が放射状に広がり、中央見張所に立てば、全ての棟が見渡せる構造になっている。最大で700人を収容でき、1912年(明治45)から1984年(昭和59)までの72年間に渡って使用された。木造の行刑建築物としては世界最古で最大規模である。
 網走刑務所は「農園刑務所」としても知られている。それは食料の調達が困難だったことから、1896年(明治29)に自給自足を目指して、農場を整備したからだった。その時、建てられた「旧網走刑務所 二見ケ岡刑務支所」は100年以上、現役として使われていた。舎房や食堂など5つの棟が渡り廊下でつながり、比較的、刑の軽い人が作物の管理から収穫までを担当していた。


舎房

 東京ドーム3.5個分の広大な敷地の博物館では、一応、順路が定められている。しかし、半ば強制的に最初に見るよう指示されるのが、網走監獄の歴史展示コーナーだ。
 そもそも網走監獄はロシアの脅威に備えるため、受刑者を使って道東と道央を結ぶ「中央道路」を開通させる目的で設置された。1890年(明治23)、人口600人余りの網走に釧路集治監網走囚徒外役所ができ、翌年、1200人が送り込まれて、道路建設が始まった。歴史展示コーナーでは、この道路建設の悲劇が紹介されている。
 受刑者たちは、逃亡防止のため、鉄の玉がついた鎖の足かせをつけながら原生林を切り開いていった。栄養不足も重なり、建設工事は困難を極めた。わずか8カ月で163キロを開通させたが、211人が死亡した。

 館内には、この時の労働を再現したマネキン人形の展示、鉄の玉を実際に足にとりつける体験などの他、多層スクリーンで、建設工事を体感できるコーナーも設けている。
 この展示を見た後は、約30キロ離れた北見市端野町の道路沿いにある「鎖塚」へも足を運んでもらいたい。当時の犠牲者の一部を悼む供養碑である。犠牲となった人たちは、まんじゅうのように盛られた土の中に埋葬された。その上に足かせの鎖の破片が置いてあったことから、鎖塚と呼ばれるようになったという。中央道路の開通、受刑者の犠牲が道東の発展の礎になったことがよくわかる。


北見市端野町にある鎖塚


道路工事の様子の再現

 北海道開拓の負の歴史に正面から向き合った勇気に恐れ入る。しかし、博物館自体、気負いはないという。博物館の配島淳事務局長は「博物館は網走市民が声を上げて作ったもの。そして、網走にとって、監獄の歴史は誰もが知っている当たり前のもの。その考えをそのまま表現したもの」だという。
 網走は監獄そして刑務所なしでは、成り立たなかった街である。自分の街を愛し、監獄・刑務所も愛し、「負の歴史」も自然体で紹介する。そこが「博物館 網走監獄」が高く評価される所以だろう。

利用案内
住  所:網走市字呼人1-1
電  話:0152-45-2411
開園時間:5月~9月 8:30~18:00/10月~4月 9:00~17:00
料  金:大人1000円+消費税/小中学生500円+消費税

付近の見どころ:
天都山(てんとざん)
網走市市街地の南西にある標高207メートルの市民憩いの山。展望台からは、網走湖やオホーツク海、知床半島や知床連山まで望むことができる。展望台に隣接してオホーツク流氷館、天都山さくら公園がある。さくら公園にはおおよそ1000本のエゾヤマザクラがあり、5月には「天都山さくらまつり」が開催される。

文・写真 坂野 秀久

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