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北海道リアルエコノミー

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 「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第29回は、釧路市の「なつかし館『蔵』北大通り」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第29回 なつかし館『蔵』北大通り ~昭和へのタイムスリップは未来への扉~

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なつかし館 外観

 扉を開けると、そこには昭和が待っていた。昭和32年公開の映画「挽歌」のポスターや釧路最大の社交場だったキャバレー「銀の目」のマッチ、それに美川憲一の大ヒット曲「釧路の夜」のシングルレコードや北海道拓殖銀行のキャラクターであるクマの「たくちゃん」貯金箱などなど。JR釧路駅から歩いて5分。「なつかし館『蔵』北大通り」は、中高年以上の人なら誰もが、かつての自分に出会える資料館である。

 館長は、左官業を営む中野吉次さん(72)。秋田県出身の中野さんは中学卒業後、集団就職で上京して左官の仕事に就き、昭和42年、釧路に移り住んだ。

 高度経済成長の真っただ中、中野さんが見たものは、大量生産と連携した“大量廃棄”だった。特にプラスチック製品に取って代わられた木製品がゴミとして捨てられるのは、秋田県出身者として、忍びなかった。中野さんは一見、役に立たなくても『味のある』ものを、時にはゴミ捨て場から拾い、時には古道具屋から買い集めていった。「もう先は長くないから引き取って欲しい」というお年寄りから、生活用品の寄贈を受けることさえあった。

 集め続けて約半世紀、コレクションの数は数万点にも及び、中野さん自身も把握できていない。そうしたコレクションを自分だけのものにせず、多くの人にも触れてもらおうと昭和55年に開設したのが「なつかし館」だった。これまで5つのなつかし館を作っているが、1つは自宅を兼ねたもの、2つがテナントを借りているもの、残りの2つは建物を買い取ったもので、まさに私財を投じたライフワークである。

 北大通の資料館は、平成28年にオープンした。北大通に作ったことに意味がある。北大通は、JR釧路駅と幣舞橋とを結ぶ釧路市の目抜き通りである。しかし、年々、閉店する店が相次ぎ、今では典型的なシャッター街でもある。資料館は北大通のかつての賑わいを知ってもらいたいという中野さんの思いも込められている。
 その代表的な資料が1階の壁に掲げられている。昭和47年頃の北大通のパノラマ写真だ。当時、撮影された数十枚の古い写真をつなぎ合わせてデジタル加工したもので、長さは何と7メートルにも及ぶ。道の両脇の店舗が全て写っていて、丸三鶴屋デパート、釧路デパートなどが並ぶ景観からは、漁業や炭鉱に沸いていた頃の釧路の勢いが感じられる。

 写真や商店の資料が多い1階と打って変わって、2階は個人の所有物だった資料が多く並んでいる。家庭で使われていたミシン、子どもの書道の作品、上靴入れなど、思わず微笑んでしまうものばかりだ。その中に一つ、額に入れられた気になる資料があった。
 読売新聞発行の大相撲の星取表だ。かつて新聞には、大相撲の初日が近づくと、折り込みチラシと一緒に星取表が入っていたものだ。展示されている星取表には横綱として、栃錦、千代の山、若乃花が入っているので、昭和30年代の初め頃のものだろう。当時の相撲ファンは、ラジオを聴きながら、星取表に白黒をつけながら、一喜一憂していた。
 ところが展示されている星取表は、西方は5日目までしか記入されていない。東方に至っては2日目までだ。この星取表は子どもがつけていたものだという。最初ははりきって始めたものの、次第に飽きてきてしまったようだ。星取表からは、そんな子どもの姿が見えてくるから不思議だ。

 中野さんのもとには、資料を売ってほしいという問い合わせが、これまでに何度も来ている。しかし、中野さんは決して売らない。どの資料も、お金では計れない価値があるからだという。資料の元の持ち主にとっても、それが幸せだろう。

 中野さんには3つのモットーがある。「もし何も残さなかったら・・・」「もし何も教えなかったら・・・」「もし何も伝えなかったら・・・」。行政も企業もやっていない「庶民の生活」を個人の力で後世に伝えていこうとしているのだ。それは決して、古き良き時代を振り返るものだけではない。過去を知ることで、より良き未来への扉を開けようとしているのだ。中野さんは現在、6つ目のなつかし館をJR釧路駅近くに整備中だ。オープンは東京オリンピックの開かれる2年後となる。

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なつかし館 中野さん

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なつかし館 内部

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なつかし館 北大通の写真

利用案内
住  所:釧路市北大通9丁目
電話番号:090-6992-4592
開館時間:AM10:00~PM5:00
休 館 日:午前11時~午後6時(通常) 不定休
入館料無料 喫茶店も併設 なつかしい味のおやき(120円)が人気。

付近の見どころ:
釧路市中央図書館
なつかし館『蔵』北大通りの隣にある北海道銀行ビルの4階から7階に平成30年2月、リニューアルオープンした。道東地方やアイヌ民族関係の郷土資料が充実している。定期的に朗読会を開催している。6階には地元出身の作家の作品を集めた釧路文学館もある。

文・写真 坂野 秀久

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