「北のミュージアム散歩」は、道新文化センターのノンフィクション作家を育成する「一道塾」(主宰・合田一道)の塾生が書いた作品を連載するものです。道内にある博物館、郷土歴史館、資料館などを回り、ミュージアムの特色を紹介しながら、ミュージアムの魅力やその存在する意味を問いかけます。
 第4回は、旭川市神楽の「三浦綾子記念文学館」です。ぜひご愛読ください。

(合田一道)

■第4回 「三浦綾子記念文学館」 ―ひかりと愛といのち―

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三浦綾子記念文学館(北海道旭川市神楽7条8丁目2番15号)

 旭川駅の南側を流れる忠別川にかかる「氷点橋」を渡り、ほぼ真っ直ぐ南に1300メートルほど進んだ目の前に約100年の時を刻む緑あふれる外国樹見本林が広がる。
 その入り口に掲げられた木の表示板を見ながら、いざなわれるように小道を歩いて行くと、雪の結晶をイメージした2階建て変形12面体の建物が見えてくる。そこが「三浦綾子記念文学館」である。
 設立されて今年で18周年のこの民間運営の記念館は、地元のみならず、国内外の三浦文学を愛する多くの人たちの市民運動によって、1万5千人余の署名と約3億5千万円の募金などで建てられたのが大きな特色だ。
 18年間で50万人以上の来館者を数えたが、近年は地元のリピーターが多い。これは生前、厳しい風土に生きる北の人たちを描き続けることを望み、旭川にこだわった綾子の思いが今も通じているからかもしれない。

 三浦夫妻は、このようなメモリアルな物を作ることに賛成してはいなかった。しかし、資料の整理、綾子のメッセージを語り継ぐにはどうしても必要という有志たちの熱い思いに後押しされ、建設に同意した。
 エントランスに入ると、吹き抜けの解放感、明るい光とともに正面に掛けられた三浦夫妻のにこやかな大きな写真が来館者を迎えてくれる。
 館内には5つの展示室があり、1階は三浦文学の全て、綾子の人生、代表作『氷点』に関する資料などが並んでいる。お年寄りや体の不自由な来館者のために、フロアーは全てバリアフリーになっている。
 美しいステンドグラスに飾られた階段の窓から見本林を見ながら2階に上がると、年に3回、違うテーマで内容を変える展示室、三浦夫妻の日常生活を紹介するゾーン、作品やインタビューの様子などがビデオで見られるコーナーがある。

 展示物の中でも、特に人目を引くのが、作品が出版される度に夫の光世に宛てて書かれた40枚のメッセージカードで、愛情溢れる言葉に心が打たれる。
 図書室の机に置かれている思い出ノートには、来館者の感想が記されていて、中には「『塩狩峠』を読んで自殺を思い留まりました」という記載もあり、作品への熱い思いが伝わる。
 館内のグッズ販売や喫茶室は、綾子が好きだったおだまきの花にちなんで名付けられた「おだまき会」という、100人ほどのボランティアグループの人たちが運営している。
 綾子は77年間の生涯に80冊以上の作品を残したが、それらは全てクリスチャンとしての深い信仰に根差したものだ。「原罪」「犠牲」「ゆるし」「祈り」というテーマを基に書かれていることからもそれがうかがえるだろう。

 綾子は1922(大正11)年、堀田鉄治とサキの第5子として旭川に生まれた。
 1935(昭和10)年、愛する妹陽子を誤診によりわずか6歳で失うが、その時「13歳の私は死というものを観念ではなく、事実として知った」と『道ありき』に書いている。陽子は『氷点』のヒロイン「陽子」のモデルと言われる。
 太平洋戦争敗戦後、自分がそれまで関わっていた軍国主義教育への怒りや憤り、懺悔などの思いから小学校教師を離職。結核と脊椎カリエスのため、13年間の療養生活を送る。そのうちの5年間は、ギプスベッドで寝返りすら打てない毎日だった。

 奇跡的な回復を遂げた後、1959(昭和34)年に三浦光世と結婚。夫に勧められて朝日新聞懸賞小説に応募し、応募数731作中の大賞に選ばれた『氷点』のテーマは人間が生まれながらに持っている原罪である。罪あるものを許し、愛するという信条が作品に貫かれている。
 その後、『塩狩峠』『泥流地帯』『ひつじが丘』『銃口』『天北原野』など、数々の作品を発表する。帯状疱疹、結腸癌、パーキンソン病などに侵され、病気がちだった綾子の執筆活動を支えるため『塩狩峠』執筆途中から光世が口述筆記を始めた。夫婦愛の深さは終生変わることはなかった。
 記念館には今も夫妻にあやかりたいと全国から新婚カップルが訪れている。

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館内の様子

利用案内
所 在 地:北海道旭川市神楽7条8丁目2番12号
休 館 日:6月~9月は無休
     10月~5月は毎週月曜日(国民の休日にあたる場合はその翌日)
開館日時:9時~17時(入館は閉館の30分前まで)
入 館 料:一般500円(10名以上の団体は450円)
     高校・大学生300円(同250円)
     小学・中学生100円(同50円)
     ※高校生以下は土曜日無料
交通機関:1条通7丁目からバスで(バス停「神楽4条8丁目」下車 徒歩5分)
     旭川空港からは車で35分

周辺のおすすめスポット
記念館すぐそばには、52種約6000本の外国樹種が連なる外国樹見本林があり、ここは『氷点』の主要な舞台として有名。その向こうを美瑛川が流れて、エゾリスなどの小動物や野鳥も数多く生息している。
記念館から700メートルほど離れた所にある旭川市博物館は、上川アイヌ展示に特化しており、館内はバリアフリーになっていて、高齢者から子どもまで楽しめるイベントが毎月開催されている。

文・写真 斉藤 康子

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