北海道経済同友会が道内経済界の中で存在感を高めている。昨年1月の坂本眞一JR北海道相談役の死去に伴い、それまで坂本氏と2人で務めていた北洋銀行の横内龍三会長が1人代表幹事になり良い意味で横内氏の個性が出てきた印象だ。原発再稼働問題や北極海航路など主張を鮮明にする横内氏に同友会活動の現状や地方創生の向き合い方などを聞いた。IMG_5807(写真は、インタビューに応じる横内龍三北海道経済同友会代表幹事・北洋銀行会長)
 
 ――北海道経済同友会が『主張する同友会』、『活発に議論する同友会』になってきたような印象です。あらためて同友会が道内経済界や道民に果たすべき役割をどう考えていますか。
 
 横内 同友会の活動を大きく変えるつもりはありませんが、道内の経済団体には比較的大きな企業が会員になっている北海道経済連合会と中小企業を会員とする商工会議所があります。同友会は設立された経緯から会員は個人。業界や企業の代表が会員になる他の経済団体と大きく違のはそこです。経済人として個人のレベルで北海道の経済はいかにあるべきか、どのような戦略を持って臨むべきかを徹底的に議論して、意見が集約できたら提言の形で世の中に問うのが役割です。そうすることによって実際の経済を動かしたり共感をもって受け止めていただければ嬉しいですね。
 活動は委員会方式で各メンバーが議論したり講演の機会を設けたりして考えを集約、提言書をまとめていますが、これまではその本数が少なかったかもしれません。私が(1人の)代表幹事になった昨年2月以降は、少し意識して同友会の原点に立った活動をやろうと心がけてきました。北海道の抱える問題をしっかり見据えて委員会活動を活発にして中間段階でも取りまとめをすることにしています。
 
 ――今年は、北極海航路も同友会のテーマに掲げていますね。
 
 横内 北極海航路を北海道の戦略として位置づけられないかと今年から取り組むことにしました。北極海航路は東京でも関心が高まってきています。北極海航路に期待できることや北海道にとってどんな価値があるのか、どんな準備が必要かなどを議論します。これは委員会ではなくワーキンググループにしました。座長は北洋銀行の中村栄作前常務(現北海道二十一世紀総研社長)です。苫小牧市では市長をはじめ関心が高くて勉強会もありますし、北海道大学にも関心を持っている教授がいます。同友会は、こうした北極海航路についての勉強会をネットワーク化して相互の団体に活かす役割を果たしたい。中村座長には、できるだけ早い時期に取りまとめをして欲しいとお願いしています。
 
 ――同友会がプラットフォーム的な役割を果たしていくということですね。北極海航路はその象徴的な事案ということでしょうか。
 
 横内 私にも強い思い入れがありますが、北海道としては実現可能性のある構想ではないかと思っています。北極海航路に関心を持つようになったのは、前金融庁長官の畑中龍太郎さんに東京で会った際に、『横内さん、官僚たちは北極海航路を勉強しているが、直感的にこの航路が実現すると北海道は大きな役割を果たせるのではないかと思う』と言われたことがきっかけです。畑中さんも資料を集めていたので、私ももらってきました。それ以来、勉強すればするほど北海道は地理的な優位性を持っていると強く思うようになりました。
 
 北極海航路を航行する船は、最小限の砕氷機能を備える必要があります。今はロシアの砕氷船の後ろに着いて航行していますが、どうしても速度が遅くて時間がかかります。これからの大型貨物船は砕氷機能をつけて航行することになり、実際に商船三井が作る船はそういう機能があります。そうなると重量が増え燃料もたくさん消費するので短い航路が必要です。どこかをハブ港にしてコンテナなどを積み替えることになりますが、緯度が高ければ高いほど航路の距離は短くなる。各国でも北極海航路のハブ港を目指して活発に動いています。ロシアはウラジオストク、韓国は釜山、中国は青島や大連などを考えているようですが、いずれも航路が長い。そう考えると北海道の優位性は高く地政学的なリスクも少ない。ベーリング海から北海道に下ってくればロシアや韓国、北朝鮮とも問題を起こさずにすみます。
 
 また、現在の北米航路は津軽海峡を通って釜山へ通じています。北極海航路がベーリング海を下ってくると北米航路と北海道沖で繋がります。2つの航路が繋がる北海道は最適な位置にあることになります。ハブ港では、コンテナの積み替えをするので広大なバックヤードが必要。国内の港でそんな規模のバックヤードを作れる地域は北海道しかありません。大型貨物船が出入りするにはもう少し港を深く掘らないといけないなど釜山や大連、天津、青島にあるインフラが北海道の港にはないことが、北海道案のネックになるかもしれません。
 
 私は北海道が将来をかけようとするなら、国と道と地方公共団体がタイアップしてインフラ増強を図り、北極海航路のハブ港を目指すべきだと思います。しかし、不確かなことに莫大なインフラ投資をする決断がつかないと思う。どうしたら決断できるのか、あるいはどれくらいのインフラ投資が必要なのか、こういうことをワーキンググループで勉強していきます。
 
 ――ある意味で国家戦略として取り組むべきことですね。しかし、まず地元が声を上げて行くことが大事です。
 
 横内 国と最終的に同じイメージになれば集中投資に踏み切るべきです。公共事業はバラマキと言われてきたように(集中投資は)今まで日本があまり得意ではなかったことですが、これをモデルケースにすることもできます。国家戦略として取り組むにしても地元にやる気がなかったらいけません。私たちのような地元の勉強会の成果が後押しできるようになれば良いと思います。しかし、勉強の結果、難題がいくつもでてきて「難しい」ということになるかも知れません。でも、課題には必ず解決策があるはずです。その課題を見つけることも物事を進めるには必要なことではないでしょうか。
 
 ――横内会長の熱い思いが相当響いてきますね。
 
 横内 あまり代表幹事の思い入れを強調して、他のメンバーたちのやる気がなくなっても困ります(笑)。客観的にみんなに勉強してもらって口出しはしないつもりです。
 
 ――他のテーマにはどういうものがありますか。
 
 横内 首都圏などのバックアップ拠点構想を取り上げたり、北海道のブランドをどう生かすことにも取り組んでいます。もう一つは水素社会についてです。政府が水素を利用した社会システムを東京オリンピックに向けて関東中心に手掛けようとしています。そうなると、地方は置き去りになってしまう。既に室蘭では工場の副産物として出てくる水素を利用した社会システムの研究に取り組んでいます。それを応援できる体制を作ってどのような水素社会を北海道で築けるかを考えていきます。
 

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