P1060098 9月に起きたJR函館線大沼駅構内での貨物列車脱線事故から2時間後に、事故現場のレール幅検査データが書き換えられていたことが分かった。書き換えは現場部署を管轄する函館保線所が指示、組織的な隠蔽だったことが初めて発覚した。脱線事故の原因を隠蔽する組織的行為でJR北海道のガバナンス、モラルが一線を超えた異次元にあったことを示すものだ。(写真は桑園駅に直結しているJR北海道の本社)
 
 一連のレール幅異常放置や実際の数値と異なる数値をデータとして入力した行為は鉄道事業者としてあってはならないことだ。しかし、脱線事故からわずか2時間後にデータを書き換えられていたことは、こうした行為が日常的に行われていたことを証明することになった。
 
 現場の混乱をよそにデータ書き換えを指示した上部組織とそれを実行した現場社員にはおそらく抵抗感はなかったのだろう。事故原因究明を妨害しても構わないという現場の感覚を蔓延させた組織はもはや組織とは言えない。
 
 組織のトップである社長の役割は、社員に企業の目的と理念、社会的役割を自覚させることにある。JR北海道は社員約7000人をまとめて行くのに相応しい社長の選び方をしていたのか疑わしい。民営化後、3代目以降の社長は東大卒で昭和44年国鉄同期入社3人が順番に務めるという暗黙知があったというが、そのレールに乗らなかった人物もいる。歯に衣着せず正論を主張するその人物は「社風」に馴染まない空気の中でやがて社長へのレールから外れ、「外」に出されることになった。
 
「内」に残った2人は社長を「順番」に務めたが、こうしたトップの決め方、決まり方にこそ今日の目を覆いたくなるようなガバナンス欠如の芽があったのではないか。
 
 一般的に事故の原因は設備由来のものもあるが、多くはヒューマンエラー、つまり人間の不安全行動からくる。ところが今回発覚した事故はどちらにも当てはまらない。事故後わずか2時間のデータ書き換えは設備の不良を隠蔽する意図的なヒューマン行動が日常的・組織的に容認されていたからだ。
 
 JR北海道の正式名称は北海道旅客鉄道。国鉄分割で誕生した鉄道会社の多くは「鉄」を使わず「金」偏に「矢」と書いて「てつどう」と無理に読ませている。金を失うことに通じることを嫌い、縁起を担いだからだ。JR北海道は金を失う代わりに信頼を失った。
 
 再生は遠のく一方だ。JR北海道は組織として消滅のカウントダウンを刻み始めた。


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