丘珠空港のポテンシャルを活かし北海道経済の起爆剤にしようという目的で開かれた「丘珠空港活性化シンポジウム」のサブタイトルは、「今、なぜ札幌シティ空港か」というものだった。モデルに見立てているのは、英国のロンドンシティ空港。同じ滑走路の長さでヒースロー空港のセカンダリー空港として年間300万人が利用する。シンボジウムでは、英国の地方空港や地域航空会社に詳しい関西学院大経済学部教授の野村宗訓氏が『英国の空港ビジネスから学ぶ』をテーマに講演、「英国では空港経営はビジネスとして展開されている。複数の空港を一括経営するのが常識」と述べ、日本の空港改革の中で丘珠が生き残る条件などについて語った。(写真は、英国の空港ビジネスを紹介する野村宗訓氏)
 
 野村氏は、英国が1986年の空港法改正で運営を民間に開放する政策に転換、90年代から3~5つの複数空港を運営する経営が始まったことを紹介。「空港ビジネスに関して日本は英国より半世紀近く遅れているが、まだ間に合う。というのも英国では改革をしながらもまだ迷っているところがあるからだ」と日本が進め始めた空港改革は決して遅くないことを強調。
 
 英国の空港会社の株主はアラブ首長国連邦やオーストラリア、アメリカ、スペインの土木建築会社など海外勢が多くを占める。もちろん自治体経営の空港会社もある。ロンドンシティ空港の株主は、米国GE系のファイナンス会社と金融コンサル会社のクレディスイス。ロンドンシティ空港からニューヨークの直行便が出ているのは、こうした株主の意向も含めて米国と英国の金融街を直結させることによるビジネス客需要が大きく見込めるからだ。
複数を一括経営するビジネスモデルが多い英国では、空港の売買が活発に行われている。
 
 「ロンドンシティ空港など3空港を運営しているロンドンシティ会社は今年8月に保有していた英国6位の空港、エジンバラ空港をBAAという空港会社に売却した。また、BAAは年間20万人が利用するハンバーサイド空港を手放し、スコットランド政府が経営するハイランズ・アイランズ・エアポートは11空港をひとまとめにして運営している。英国では、空港会社が多くの空港経営にかかわりながら成長している」と野村氏は指摘。
 
 さらに、「ハンバーサイド空港は郊外の過疎空港に見えたが、平日はアバディーン空港への便やアムステムダムへの国際便、週末はジャージーへの便がある。ハンバーサイド空港とアバティーン空港を拠点にしているのは英国で13位の航空会社、イースタン航空。私は、イースタン航空が2空港を動かしていると思っている」と語り、「丘珠空港は就航する航空会社がHACのみだが、空港会社と航空会社が一体化して取り組むことが、イギリスでは認められている。日本の中小空港会社ではこういう形も必要ではないか」と主張した。
 
 また、年間30万人が利用してきたコベントリー空港が、就航していた1社が路線を休止して休港になったケースも紹介、「空港の複数一括経営か就航会社を複数持っていないとこういう事態になりかねない」と警鐘を鳴らしていた。
 
 最後に、野村氏は丘珠空港と旭川空港が一体化することが良い組み合わせであることを示唆。新千歳空港は、本州の空港と組むことでさらに活路が広がることに言及。「これまでは誰かが動かしてくれるということで全国に98空港があった。これからは地元と会社とキャリアが相談して路線を拡充し個性を出していき、自らの置かれているポジショニングを発揮する経営へ転換しなければならない」と結論付けた。中でも、欧州では大きな需要層になっているVFR(ビジティング・フレンズ・アンド・レラティブス)という友人や親戚を訪ね歩く客層の取り込みが鍵になることも強調していた。
 
 シンポジウムを主催した「丘珠研究会」の佐藤良雄・キャリアバンク社長は、「地域愛と使命感が大事だということが分かった。フジドリームエアラインズの鈴木社長と一緒にビジネスができれば良いと思う。これから行動を起こして行きたい」と閉会挨拶で述べ、丘珠空港活性化のヒントを掴んだ様子だった。


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